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中村敬斗と三笘薫の突破に見る、サッカーにおける「ブロックプレー」の有用性

サッカーの戦術は、日々進化を続けている。時代と共にトレンドが移り変わり、局面ごとの個人戦術も少しずつ変化している。そんな中、先月行われたサッカー日本代表のFIFAワールドカップ26アジア最終予選・日本代表対オーストラリア代表の試合では、中村敬斗(スタッド・ランス=リーグ・アン)と三笘薫(ブライトンFC=イングランドプレミアリーグ)がおもしろい連係プレーを見せていた。他の球技では既に高い頻度で使われているその動きは、将来的にサッカーでもメジャーな戦術として定着していくのだろうか。その可能性を考察していく。

三笘のアイディアが光った即興的プレー

中村敬斗後半30分に差し掛かろうというときだった。左サイドのタッチライン際でパスを受けた中村が、足下にボールを止める。その後自陣方向に戻りながら顔を上げ、バックパスで組み立て直すような雰囲気を出しておいて、再度前を向いてボールをセット。対峙した右WBのルイス・ミラー(ハイバーニアンFC=スコットランドプレミアリーグ)に縦突破を仕掛けて抜き去ると、その後もう1枚相手DFをはがしてラストパス。見事オウンゴールを誘発し、貴重な勝点1をもたらした。 中村の個人技は当然称賛されるべきだが、同時に、1人目のミラーを抜き去る瞬間に完璧なブロックプレーで突破をアシストした三笘薫(ブライトンFC=イングランドプレミアリーグ)の動きも見逃せなかった。中村の少し前にいた三笘は、中村が前を向き直した瞬間に縦への仕掛けを察知。そのままミラーの進行方向に残り、中村を追うミラーを完璧なブロックで封じたのだ。 「準備していたプレーというよりは、瞬間的なアイディアです。“(中村が)縦に仕掛けてくるな”と分かった瞬間には、やれることはブロックくらいだったので。彼のクオリティが素晴らしかったのがすべてですが、少しでも突破を助けられたならよかったかなと思います」 このプレーについて、SNS上などでは「三笘が地味にいい仕事をした!」といったコメントもある一方で、「あれはファウルにならないの?」といった投稿も見受けられた。結論から言うと、三笘のプレーはファウルにはあたらない。三笘がミラーをブロックした瞬間、三笘が「静止していた」という点が大きなポイントだ。その場に静止していた以上、あくまでも「“元からその場に止まっていた”三笘にミラーの方からぶつかって倒れただけ」という認識となるのだ。

セットプレーで多用されるブロックプレー

三笘が行ったのは「ブロックプレー」と呼ばれるプレーだ。文字どおり、相手の進行をブロックすることで味方を援助する。バスケットボールなどの経験がある人なら、「スクリーン」という呼称のほうが馴染み深いかもしれない。あらゆる球技でよく使われる、定番の連係プレーの1つだ。 このブロックプレー。従来サッカーで使われることはあまり多くなかったが、近年トップレベルの試合で目にする機会が増えてきている。特によく使われるのが、セットプレーの局面だ。 日本代表も、このオーストラリア戦のセットプレーでブロックを使用していた。前半14分の右CKの場面。ゴール近くに5人の選手が密集することでオーストラリアのDFたちをゴールエリア内に集め、キッカーの久保建英はファーサイドの少し離れた位置で待っていた堂安律へ。堂安に寄せるため前に出ようとするオーストラリアのDFを、ゴール前に入っていた谷口彰悟、上田綺世、町田浩樹らがブロック。相手DFの動きを止めることで、堂安はフリーでボレーシュートを打つことができた。 セットプレーは、デザインした戦術を最も発動しやすい場面だ。代表レベルの試合のみならず、今ではJリーグの試合でも盛んに行われており、今後もブロックプレーを組み込んだ崩しはさらに増えていくことだろう。
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コンビネーションがプレーの鍵に
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フリーライターとして雑誌、Webメディアに寄稿。サッカー、フットサル、芸能を中心に執筆する傍ら、MC業もこなす。2020年からABEMA Fリーグ中継(フットサル)の実況も務め、毎シーズン50試合以上を担当。2022年からはJ3·SC相模原のスタジアムMCも務めている。自身もフットサルの現役競技者で、東京都フットサルリーグ1部DREAM futsal parkでゴレイロとしてプレー(@yu_fukuda1129

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