ネット参院選、最も効果があったのは“ネガキャン”だった
いよいよ明日7月21日、参院選の投開票日を迎える。ネット選挙解禁後、初めてとなる国政選挙ということで、各候補者とも政党ぐるみで事前準備を進め、盤石の構えで選挙戦に臨んだかに見えたが、当初「想定」していた戦いとはいくぶん趣が違ったようだ……。
その典型が、「大激戦」と評される東京選挙区での残り1枠を懸けた“場外戦”かもしれない。定数5のうち、各メディアがすでに「当選圏」に達していると報じるのが、追い風に乗った自民2議席に加え、手堅い組織票が見込める公明・共産の各1議席だが、現在、熾烈な5位争いを繰り広げている無所属・山本太郎候補と民主党・鈴木寛候補の鍔迫り合いは、盛り上がりに欠けた初のネット選挙のなかにあって、ある意味、唯一見るに値する泥試合の様相を呈している。
「互いに支援者や勝手連が口汚く罵り合っていますが、“インテリ”鈴木vs.“反原発”山本の仁義なき代理戦争といった構図ですね。超党派でネット選挙解禁に尽力したとされる鈴木候補が、自分がこじ開けたはずのネットという場でフルボッコを食らうという展開に皮肉な巡り合わせを感じますが……」
ブロガーのやまもといちろう氏がこう話すように、鈴木候補を巡っては、文科副大臣時代に文科省が子どもの被ばく許容量を20ミリシーベルトに決めたことや、SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)の予測結果を公表しなかったのは鈴木候補個人の責任に拠るものといった批判ツイートが爆発的に拡散されている。
ツイッター上では、山本候補推しの勝手連が匿名で騒いでいると捉えられているが、興味深いのは、このやや一方的なそしりに対し、ネット論壇を賑わせてきたインテリ層が反応。東大大学院准教授の伊東乾氏などは、鈴木候補バッシングを片端から論破するなど、擁護ツイートを連発させているのだ。
「灘高―東大という輝かしいキャリアの鈴木候補は、何かと人を見下してしまう癖があり、同じような境遇にあるインテリ層の“ウケ”はいい。ただ、民主党内ではこのキャラが災いしむしろ疎ましがられているので、このような惨憺たる状況になっても誰も助けにきてくれないのです。一方で、山本候補の陣営が100万人のメールアドレスを集めている点は注目に値します。ネット解禁で公選法を改正する際、候補者本人への『なりすまし』は想定していたが、今回のようなケースは想定外のこと。ましてや、ネット上で勝手連ができて、当落線上にある対立候補を攻撃するような動きなど考えてもいなかった。今回の小競り合いは、鈴木候補を以前から攻撃していた勢力が山本陣営の勝手連に加わったことで、一気にデマが拡散された……ネット選挙解禁の拙い面が浮き彫りになった格好です」
投票先を決めるに当たって政党や候補者の比較が容易になり、有権者がその気になりさえすれば候補者本人と双方向の意見交換が可能になるなど、ネット選挙がもたらす“メリット”もあるにはあったが、匿名による特定候補者への誹謗中傷やネガティブキャンペーンといった“リスク”のほうが勝ったということだろう。
実際、選挙戦終盤には、一部の候補者の名前をある検索サイトに入力すると、「選挙違反」や「逮捕」といった、候補者のイメージを損ねるような関連キーワードが多数出てくるという不測の事態も起きた。各党とも、ネット上に飛び交う風評をチェックし、ネット工作員が情報を操作する書き込みまでする監視サービスを利用しているのでは? とまで実しやかに言われていたが、実際にそのような攪乱作戦まがいの工作などできるものなのか。
「候補者とネガティブワードを結びつけることなど簡単です。ブログサービスを利用して、特定候補名と誹謗中傷の言葉を並べたタイトルで多くのエントリを書けば、注目キーワードに入ってくる。4万件程度、検索をかければ、関連キーワードになります。どのくらいブログエントリがあって、どのくらいのページランクのブログがあれば、どの程度関連キーワードに入るかは経験則がありみんなわかってるので、まともなSEO業者ならお手のもの。ただ、場合によっては公選法違反に問われます。今回の選挙戦を見て、ネット解禁のいい面よりも単なる誹謗中傷など悪い面のほうが目立ったのは、ネガキャンの効果のほうがはるかに大きいから。実際、この短い選挙期間中に、特定の競争相手にマイナスのイメージを植え付けられれば、誰に投票するか迷っている有権者は確実に選択肢から外すはず。こうした動きはある程度想定されていたが、今回これを組織的にやる人たちが出てきたということ。そういう意味では、今回の参院選は当局が動き出す、投票終了時間の20時以降どうなるかが興味深いですね」
見えないネット工作がどの程度選挙結果に影響するか? 参院選は明日投開票日を迎える。 <取材・文/日刊SPA!取材班>
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