「豊田はここにいるぞ!」代表一謙虚な男が見せたW杯メンバー入りへの思い
サッカー日本代表は5日(水)、キリンチャレンジカップ2014でニュージーランド代表と対戦し、4-2で勝利した。3ヶ月後に迫ったブラジルW杯本大会の登録メンバー発表前のラストゲーム、また現在の国立競技場での最後の試合ということもあり、小雨の降る中5万人近い観衆が詰めかけた。
試合は開始直後から日本がニュージーランドを圧倒。岡崎の先制ゴールを皮切りに、前半20分までに4得点を挙げ、早々に試合を決める。マインツへ移籍し、キャリア最高とも言えるシーズンを送っている岡崎慎司が2ゴールを決めたほか、マンチェスター・Uでは思うように出場機会を得られていない香川真司も1ゴール1アシスト、1月に移籍したACミランで同じく苦しい状況にある本田圭佑は2アシストと、主力が軒並み結果を残した。また、怪我で招集が見送られた長谷部に代わりキャプテンマークを巻いた長友佑都は、左サイドを完全に制圧。序盤から幾度となく上下動を繰り返し、攻撃面では香川や本田をフォロー。守備面でも球際で圧倒的な強さを発揮し、対面の相手に仕事をさせない。格下相手とはいえ、この4人はそれぞれが替えのきかない選手であることを改めて印象付けた。
ザッケローニ監督はより多くの選手を試すため、後半の頭から4人の選手を投入。この日先発に抜擢され45分間プレーしたサンフレッチェ広島のボランチ青山敏弘は、ここで遠藤保仁と交代となった。「もっと縦パスを入れて前に絡んでいきたかったが、これが今の実力だと思う」と振り返った。慣れない布陣の中でも長短のパスを使い分け上手くボールを展開していたように見えたが、本人の分析は違った。無難にこなすだけでなく、その上でどれだけ自分の個性をアピールできるか。23人のメンバー入りに向け、それがいかに重要なことか、またどの程度のインパクトが必要かを、当落線上にいる選手たちはより敏感に捉えているのだ。
そんな中、2日前に追加招集されたこの男もまた、並々ならぬ思いでこの試合を迎えていた。柿谷の離脱により急遽招集された、サガン鳥栖のFW豊田陽平だ。昨年7月の東アジアカップでA代表に初招集され初優勝に貢献。この活躍が評価され続く8月のウルグアイ戦にも途中出場したが、海外組らとうまく噛み合わず不発に終わり、それ以降代表からは遠ざかっていた。豊田が呼ばれなくなった後、柿谷、大迫の2人が欧州遠征などで台頭。ブラジル行きのチャンスは潰えたかに見えたが、この土壇場で千載一遇のチャンスが巡ってきたのだ。前日練習後、「チャンスは絶対にあると思っていた」と語った豊田。代表から遠ざかっていても、ブラジル行きを諦めたことはなかった。いつ来るかも分からないチャンスのために、しかしそれがいつ来ても良いように、所属する鳥栖での練習に全力を注いできた。1日(土)のJ1開幕戦では見事2ゴール。日々の積み重ねの末に掴んだ2ゴールが、指揮官の目に留まった。
4対2の2点リードで迎えた終盤、豊田に声がかかった。1トップで先発した大迫と交代し、ピッチに入ってゆく。与えられた時間は10分。決して長い時間ではなかったが、「がむしゃらにというか、悔いの残らないようにと思って入りました」と振り返った通り、懸命にゴールを目指した。86分には本田とワンツーで中央を突破。ゴール前で倒され好位置でFKを獲得した。直後の本田のFKは相手GKの好セーブに遭ったが、不完全燃焼に終わったウルグアイ戦には無かった手応えを掴み始める。88分にはカウンターからドリブルで独走し、ミドルシュート。「何か残したいと思っていた」という言葉通り、ゴールへの強い意欲を見せる。後半ロスタイムには齋藤学のドリブル突破と並走し、相手のマーカーより早くゴール前に到達。パスが来ればフリーでシュートを打てる場面だったが、豊田と同じく生き残りへ向け結果が欲しい齋藤はシュートを選択。豊田が両手を広げて天を仰ぐ中、終了のホイッスルが鳴った。
試合後ミックスゾーンに現れた豊田は、得点という結果を残せなかったことを悔やみつつも、確かな手応えを口にした。
「追加招集の身なのでそれを活かしたかった。結果が出なくて残念ですけど、今日は結構味方に見てもらえて、何度か良い形でパスも受けれたので、ウルグアイ戦ほど落胆は無いです。しっかり気持ちを切り替えてリーグ戦にぶつけられるようにやるしかないのかなと思います。今日はあとちょっとの所で、ラストパスが出てくれば得点という場面もありましたし。そんなにネガティブにならずに、前向きに捉えるしかないですね」
限られた時間の中で、今やれるだけのことはやり切った。あとは今まで通り鳥栖での日々のトレーニングに集中し、Jリーグで結果を残していくだけだ。
「監督も“全選手見てる”って言ってくれましたし、しっかり最後まで諦めずに、チームに戻ってからまた頑張ります。そこで得点を取り続けるしかないです。鳥栖で“豊田はここにいるぞ”っていうのを見せられれば良いですね」
運命のメンバー発表は5月初旬を予定されている。「追加招集で呼んでもらって……」と言いかけた言葉を「あ、いや呼んで“頂いて”」とわざわざ言い直すほどの謙虚な男は、いつ来るかも分からないチャンスのために、しかしそれがいつ来ても良いように、万全な準備をしながらその時を待っている。
<取材・文/福田悠 撮影/難波雄史>フリーライターとして雑誌、Webメディアに寄稿。サッカー、フットサル、芸能を中心に執筆する傍ら、MC業もこなす。2020年からABEMA Fリーグ中継(フットサル)の実況も務め、毎シーズン50試合以上を担当。2022年からはJ3·SC相模原のスタジアムMCも務めている。自身もフットサルの現役競技者で、東京都フットサルリーグ1部DREAM futsal parkでゴレイロとしてプレー(@yu_fukuda1129)
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