雇い止めで“うつ状態”の彼にどう接したらいいか?【同棲中29歳女性の悩み】
【佐藤優のインテリジェンス人生相談】
“外務省のラスプーチン“と呼ばれた諜報のプロが、その経験をもとに、読者の悩みに答える!
◆「雇い止めで鬱状態の彼にどう接したらいいか?」天然水(ペンネーム) 会社員 女性 29歳
一緒に暮らしている彼が鬱状態のようで、そろそろ自分が限界です。昨年非正規雇用者の雇い止めが検討され始め、職場や仕事への愛着を失ってしまったらしく、ここ3か月は無気力状態で、仕事も休みがちです。
もともと常に何かしていないと落ち着かないようなエネルギッシュな人だったので、そんな姿を毎日見るだけでも辛いのに、「嬉しいことが何もない」「仕事に関心を持てない」と、ネガティブな言葉を聞き続け、自分までおかしくなってしまいそうです。変にたきつけるのも逆効果なようですし、どうすればいいのでしょうか。
◆佐藤優の回答
古代ギリシャの哲学者アリストテレスが述べているように、「人間は社会的な動物」です。職場は社会の基本単位です。しかし、過去十数年の間に弱肉強食の新自由主義が日本全体を覆ってしまったために、一人ひとりが分断され、過度な競争を強いられています。その矛盾が最も集中するのが非正規雇用者です。真面目に働いているのに、雇い止めが検討されれば、職場や仕事への愛着をなくして鬱状態になるのも決して異常な現象ではありません。こういう社会は悪に満ちています。悪魔の研究家として著名な歴史家のジェフリー・ラッセルがこんなことを述べています。
<悪魔が客観的に存在するかどうかを決定することは、歴史学にはできない。しかし歴史家は、悪魔が存在するかのように人びとはふるまっていたらしい、ということはできる。悪―感覚をもつ存在に苦痛を加えること―は人間の存在にかかわる問題のうちもっとも古く深刻なもののひとつである。しばしば、それも多数の文化が、悪を人格化してきた。その人格化された悪を、話をはっきりさせるために「悪魔」とわたしはよんでいる。(中略)わたしは中世の研究者であるが、数年前に十一世紀と十二世紀の悪魔の概念の研究を始めて、歴史上の祖先をぬきにしては中世の悪魔を理解することはできない、と悟るにいたった。さらに重要なことに、悪の問題全般の脈絡のなかで見るのではなくては悪魔の理解はまったく不可能だ、ということがわかった。歴史家としても人間としても、わたしは悪の問題を正面から見なくてはならなくなった。>(『悪魔――古代から原始キリスト教まで』1頁)
あなたのパートナーの上司は、ラッセルの概念を用いるならば、社会構造の悪が人格化した悪魔なのです。悪魔に対抗できる力は、愛しかありません。まず、彼に「あなたが悪いのではなくて、会社に問題がある」ということをきちんと伝えることが重要です。それとともに「あなたは鬱の症状が出始めていると思う。専門家に診てもらいましょう」と言って、精神科か心療内科の医師の診察を受けさせましょう。お医者さんに、仕事を続けることが適切か、端的に尋ねてみるといいと思います。そして、基本的には医師のアドバイスに従うことをお勧めします。薬を処方されることになると思うので、彼がきちんと飲むように、あなたのほうで気遣ってあげるといいと思います。
この先は、あなた自身の問題になりますが、彼を本当に愛しているのかどうか、よく考えることです。愛しているならば、一緒に住んでいるうちに事態は必ず改善します。彼の鬱状態が改善しないならば、仕事を辞めさせてしまい、しばらくあなたが2人の生活を経済的に支えることをお勧めします。心に違和感があるならば、病院に連れていくことまでが、自分の責任だと割り切って、同棲生活を解消することをお勧めします。
【今回の教訓】
悪魔に対抗できる力は愛しかありません
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【佐藤優】
’60年生まれ。’85年に同志社大学大学院神学研究科を修了し、外務省入省。在英、在ロ大使館に勤務後、本省国際情報局分析第一課で主任分析官として活躍。’02年に背任容疑で逮捕。『国家の罠』『読書の技法』『日本国家の神髄』など著書多数 (※写真はイメージです)’60年生まれ。’85年に同志社大学大学院神学研究科を修了し、外務省入省。在英、在ロ大使館に勤務後、本省国際情報局分析第一課で主任分析官として活躍。’02年に背任容疑で逮捕。『国家の罠』『「ズルさ」のすすめ』『人生の極意』など著書多数
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