番外編:カジノを巡る怪しき人々(9)

不思議な履歴書(笑)

「井川のアホぼん」が、いったいどれくらいの金額を、バカラ卓に張られたグーリンの羅紗上で溶かしたのかを、わたしは知らない。

 また、おそらく永遠に謎として残るのだろう。

 警察や検察が追加発表した112億1000万円、さらにその後の発表では、160億円まで膨らんでいるのだが(わたしの「邪推」が正しかったわけだ)、井川本人の金および未回収の回銭分まで含めれば、その程度では済むまい、とわたしはまたまた邪推する。

 この件に関し、多くの「専門家」や「事情通」たちが、マスメディアやネット上でコメントを発している。

 そこでわたしにわかったのは、皮肉なことだが、多くの「専門家」や「事情通」たちが、カジノという世界の全体像にいかに無知だったか、という点である。

――ジャンケットは総ベット額(=ターン・オーヴァー)のパーセンテージの報酬。

 と主張したり、

――「ジャンケット業者が負けた者にはどんどん貸す」のは間違いであり、

「『よく知らない事』に対して適当にコメントするのは控えましょう」

 と、わたしを攻撃した「日本で数少ないカジノの専門研究者」で「国際カジノ研究所長」・木曽崇がいい例だと思う。

 いずれおこなわれるだろう日本での「カジノ解禁」を控え、怪しき人々が「専門家」を騙り、利権を求め、跋扈する。

 木曽の場合は、ちょっと極端すぎた。

 この男が自分のブログで公表している履歴を記しておく。

木曽崇(キソタカシ)
国際カジノ研究所 所長
エンタテインメントビジネス総合研究所 客員研究員
早稲田大学アミューズメント総合研究所 研究員
日本で数少ないカジノの専門研究者
ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部主席卒業(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者での会計監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌 2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長に就任。

 UN LV UNIVERSITY MEDAL(主席卒業のこと)LIST KISO

 で検索してもヒットしなかった。

 念のためお断りしておくが、ヒットしなかったからといって、それは必ずしも「UN LVのホテル経営学部」を木曽が「主席卒業」しなかったことを意味するものではない。たまたまヒットしなかった、あるいはUN LVが「主席卒業者」リストを、ネット上で公開していない。そういうことだってあるはずだ。

 ついでだからUN LVで木曽の先輩に当たる人に取材したら、グリーン・カードの問題を指摘して、

「アメリカの大手カジノ事業者での会計監査職に、よく就けたな。この業界の資格審査は厳しいはずなのだが。それとも、大学生に与えられる(インターンあるいはアルバイトとしての)『就労枠』だったのかね」

 とのコメントを頂戴した。

 もしこれが一部でも真実を衝いていると仮定するなら、長崎(ラスヴェガス)の駕篭かきが江戸(日本)で医者を開業したケースなのだろうか。

 上場企業の「会計監査」は、もちろん「公認会計士(chartered accountant)」の資格をもった者たちだけがおこなえる専権業務だ。

 木曽がアメリカでも通用する「公認会計士」の資格を持っているとするなら、こういった夜郎自大な履歴を書く人は、間違いなく嬉しそうにそう書き加えているはずなのだが。

さて、夕方に一度部屋へ戻り、今年の2月以来、久しぶりに会うことになっているキソさんを待ち、再会を果たす。前回会った時、彼はダウンタウンの4 QUEENS (フォークイーンズ)でインターン生として働いていましたが、三週間ほど前からストリップのFLAMINGO (フラミンゴ)に新しく勤め始めたそうです。仕事の内容はホテル内の ”バフェ” と ”カフェ” での現金以外の売上日計を算出し、データとして管理するというものです。 (http://www.geocities.co.jp/Playtown-Yoyo/3913/LV2003_1st_week.html

 んっ?

「ホテル内の“バフェ”と“カフェ”での現金以外の売上日計を算出し、データとして管理する」

 んっ、んっ??

 木曽はしばしば、自分自身を、

 ――事業者側、

 そして、

 ――業界側、

 の人間と自己規定し、ネット上で発言する。

 しかし、それは、いったいどこの「事業者」であり、どんな「業界」なのか?

 まさか、「4QUEENS」事業者でも、フラミンゴ・ホテル内の「バフェとカフェ」業界でもありえまい。

 事業者側の人間であり、業界側の人間であると主張したいなら、木曽には、そのことに関する具体的な説明責任が生じる、とわたしなど考えるのだが、いかがか?

 上記に登場する「キソさん」が、「日本で数少ないカジノの専門研究者」で、「国際カジノ研究所」所長・木曽崇でないことを、わたしは祈るばかりだ。

 以前にも書いたけれど、社会一般の知識不足につけ込むように、日本のこの業界には、知識にも経験にも乏しい怪しげな人たちが跳梁跋扈する。

 日本でカジノが合法化されれば、巨大な利権が転がるだろう永田町・霞が関界隈では、とりわけその傾向が激しい。

 ラスヴェガス時代に書いた自分のブログを、木曽は(ほとんどすべて)削除しているそうだ。まあ、サーヴァーには残っていることだろうから、探すのは不可能じゃないけれど。

「森巣氏も含めて、こうやってインチキな専門家もどきが出てきて、したり顔で嘘情報ばかり流布する」(11月1日、takashikisoのTwitter

 と、「日本で数少ないカジノの専門研究者」で「国際カジノ研究所長」は、わたしのことを攻撃した(笑)。

し、し、しかし……。

 いったいどちらが、「インチキな専門家もどき」なのだろう(大笑)。

(つづく)
⇒番外編:カジノを巡る怪しき人々(10)「現場を踏むということ」

PROFILE

森巣博
森巣博
1948年日本生まれ。雑誌編集者を経て、70年代よりロンドンのカジノでゲーム賭博を生業とする。自称「兼業作家」。『無境界の人』『越境者たち』『非国民』『二度と戻らぬ』『賭けるゆえに我あり』など、著書多数。