ばくち打ち
第5章:竜太、ふたたび(40)
いや、そもそもセックスなんかとは比較にならないほどのエキサイティングでスリリングなことが、竜太を待ち受けているはずである。
空港まで追いかければ、まだ間に合うかもしれないが、竜太はそうしなかった。
それにみゆきが書いているように、二人で打ったときの竜太の博奕(ばくち)成績は、惨憺たるものである。
――神さまがわたしにプレゼントしてくれた大金が、これからどんどんと減っていく気がします。
というみゆきの言い分は、わからないでもない。
なぜなら、彼女のこれまでの経験がまったくそうだったのだから。
おまけに、竜太も一人で打ったときの方が、成績は圧倒的によかった。
女と博奕を秤(はかり)にかけりゃ、それは当然博奕のほうが重い。
背なで吠えてる筋彫刺青(すじぼりがまん)。
博奕より集中できることが、この世に存在するのか?
竜太は自問する。
あるわけがなかった。
みゆきが残したメモを読んで受けた最初の衝撃は去った。
竜太は自分の両頬を平手で叩き、気合いを入れる。
オーストラリアのカジノで勝ちつづけ、シドニーのボンダイ・ビーチをそっくりそのまま丸ごと買ってやろうじゃないか、と。
上着のポケットから取り出したビスケットとチップを、クロゼット内の金庫に収め、まずメシを喰おう、と竜太は思った。
腹が減っては戦(いくさ)ができない。
たとえ長期戦となろうとも、本当の勝負は、これからなのである。
(第5章 「竜太、ふたたび」了)
(お断り:第五章「竜太、ふたたび」は、ここでいったん「了」とします。次回からの第六章では第二章で登場した「賭博依存の男」有坂啓示の「その後」を書く予定でした。しかし『IR法案』に関する切迫した事態に鑑み、「番外編」となります)
⇒続きはこちら 番外編その5:知られざるジャンケット(1)