番外編その5:知られざるジャンケット(3)

 ジャンケットという業種にかかわり、『IR実施法』の原案を作成した有識者たちの理解度だけが低い、というわけではない。

「日本で数少ないカジノの専門研究者」を名乗る「(株)国際カジノ研究所」所長・木曽崇も、その無知ぶりをさらけ出していた。

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「総括・大王製紙特別背任事件」

(前略)この日本法人とは別に存在が報じられているのがジャンケット事業者と呼ばれる存在。ジャンケット事業者とは、上で紹介したカジノ事業者の現地法人の替わりにVIPの送客と新規顧客の開拓を行う外部事業者です。これら業務を肩代わりする見返りとして、自分が送客したVIPの「総ベット金額の○%」という契約でキックバックを貰います。詳細は過去に解説したことがあるのでこちらの記事を読んで頂ければと思いますが、今回の大王製紙の事件においてもカジノ事業者の日本法人とは別に、上記のようなジャンケット事業者の存在も確認されているようです。

また、ここに関しては一部で間違った情報も流布されているので、一応繰り返し強調しておきますがジャンケット事業者への報酬はあくまで送客したVIPの「総ベット金額」(ゲームに賭けた金額)をベースとして支払われるもの。そのゲームで顧客が「勝つor負ける」事は、ジャンケット事業者の報酬には全く影響がありません。下記のリンク先では「客が負けてくれればくれるほど、ジャンケット事業者としては実入りが大きくなる」ので、「負けた人にはどんどん金を貸す」などというコメントをしている人が居ますが、これは完全に間違いです。

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/6294067.html

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 どうやらこの「日本で数少ないカジノの専門研究者」は、ジャンケットを「外部委託されたカジノ・ホスト」とでも考えていたようである。

 UNLVのアーカイヴに記録されていない「首席卒業」者であり、公認会計士としてUSCPA(Certified Public Accountant)に登録されたこともないのに、なぜかラスヴェガスの「大手カジノ事業者で会計監査職」をやっていたそうであり、早稲田大学の研究者リストに過去も現在も記載されていないのに「早稲田大学大学院研究員」を名乗った(以上、木曽崇の過去の自己申告プロフィールより引用した)不思議な人が想像するジャンケットとは、そんなものなのかもしれない。

 この「(株)国際カジノ研究所」所長は、法螺(ほら)がバレると、しら~っとブログを書き換えたり、ツイッターをこそこそ削除したりよくするそうである。したがって現在の自己申告のプロフィールは、また変わっているかもしれないが。

 まあ、怖ろしい「日本で数少ないカジノの専門研究者」が居たものである。

 話を戻す。ジャンケットがわからないと、アジア太平洋地域における「カジノ事業」の全容が見えてこない、とわたしは考える。

 なぜなら、この地域における大手カジノの収益の大半は、ジャンケット・ルームを含むVIPフロアから上がってくるのだから。

 マカオでは、「反腐敗政策」以前の大手カジノの「売り上げ」の75%前後は、VIPフロアからのものだったし(現在は57%前後の数字に落ち着いている)、昨年(2017年)にオープンしたサイパンの『インペリアル・パレス・サイパン』なんて、開業直後の「売り上げ」の95%が、VIPフロア(主にジャンケット・ルーム)からのものだった。

 そんなカジノ事業者の収益の大半を上げてくれるジャンケットがわからないと、アジア太平洋地域における「カジノ事業」の全体像はわからない。(つづく)

⇒続きはこちら 番外編その5:知られざるジャンケット(4)

PROFILE

森巣博
森巣博
1948年日本生まれ。雑誌編集者を経て、70年代よりロンドンのカジノでゲーム賭博を生業とする。自称「兼業作家」。『無境界の人』『越境者たち』『非国民』『二度と戻らぬ』『賭けるゆえに我あり』など、著書多数。