番外編その5:知られざるジャンケット(7)

「フツ―の『切り取り』って、足代として2割くらいしか出ないんだが、博奕(ばくち)の借金の場合はスジの悪い奴らが多いから、割りはよくなる。返したがらない連中、多いでしょ。相手が同業者のときもある。いまの六代目山口組の司忍親分の元の親分は名古屋の弘田武志って人で、博奕が好きでね。あの頃国内のは手本引きかアトサキだったんだが、バブル期になると海外カジノでバカラに嵌まっちゃった親分衆って、かなり居た。そういう連中が相手のこともあったんだよ。それで博奕借金の回収は、『トリ半』とか『半戻し』とか言って、取り戻した金額の半分は、自分らのアラ(=カスリ)となったんだ。ひどい『切り取り屋』になると、シロート相手なら、1億の借金のカタに時価10億円のビルを押さえちゃう。あの頃のジャンケット関連の商売は、これが美味しかったんだよ」

 いろいろと勉強になった。

 ちなみにこのおっさん、のちにわたしのビーチ・ハウスを訪ねてきたことがあった。

 長いドライヴになるから、しっかりとお手洗いを済ませておけ、と事前に伝えておいたのに、南海岸某空港からの道中半ばくらいで、

「腹が差し込む。トイレに行きたい」

「そんなものあるわけないだろ。そこいらへんでやってきなさい」

 車から降ろされたおっさんは、800キロを超す牛たち十頭ほどに囲まれ、ズボンを下ろしていたのだが、

「やっぱ自分、あんなところじゃできましぇん」

 とべそをかいていた。

 なかなか愛嬌のあるおっさんであった。

 飛び過ぎたので、話をスタンレー・ホーに戻す。

(FBIマネロン・リストの関係で)アメリカには行けないマカオのカジノ王スタンレー・ホーが諸処のビジネスで来日した際、東京なら神田猿楽町にあった(現在は丸の内の丸ビル内に移転)『天政』に必ず寄って、てんぷらに舌鼓を打っていたそうだ。そんな繋がりがあったからなのだろうが、息子ローレンス・ホーの『アルティラ』には、「頂級(=高級のさらに上)」お座敷てんぷら『天政』が入っていたりする。

        *        *        *

 以上の説明でだいたいご理解いただけたと思うが、ジャンケットとは現在はどうあれ、たまたま法的に取り締まられることはなかったかもしれないが、過去にはいろいろとグレイあるいは「闇」の部分を多く含んだビジネスだった。

「日本で数少ないカジノの専門研究者」を自称する(株)国際カジノ研究所所長・木曽崇は、ジャンケットに関する自分の無知が晒されると、

 実は、マカオのカジノ業界には特殊な商習慣があります。それは、マカオ内で本来は6つしか存在しないカジノ運営権を持つ事業者と個別契約を結び、彼等の施設の中に間借りする形で自前のカジノルームを持っている事業者が存在する事。これは「カジノの中にまた別のカジノがある」ともいえる状況で、マカオ以外の国ではあまり見かけない業態です。事業者によっては自前で新規開発をしたカジノホテル全体をもって「あくまで正規のカジノ事業者に間借りしているモノである」という便宜上の解釈をしながら、ライセンス発行を受けた正規のカジノ事業者とほぼ変わらぬ営業をしている事業者まであります。
http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/6385175.html

 なんて、自分が吹いた法螺がバレたことをごまかそうとして、さらなる無知ぶりを盛大に晒していた。(つづく)

⇒続きはこちら 番外編その5:知られざるジャンケット(8)

PROFILE

森巣博
森巣博
1948年日本生まれ。雑誌編集者を経て、70年代よりロンドンのカジノでゲーム賭博を生業とする。自称「兼業作家」。『無境界の人』『越境者たち』『非国民』『二度と戻らぬ』『賭けるゆえに我あり』など、著書多数。