マーケティングの常識を疑う――「ボリューム陳列だと売れる」は本当か?

ホームセンターで一番売れている商品は?

 最近、若い女性の間でDIY(Do It Yourself)が密かなブームになっているようです。DIY女子という言葉も生まれ、かつての日曜大工をするお父さんというイメージから、ガーデニング、インテリア、雑貨、ペットなどDIYカテゴリーが拡大しています。整理整頓グッズや収納アイデアなどもさかんにメディアで取り上げられるようになりました。  日本DIY協会によると、日本で初めてホームセンターが誕生したのは昭和47(1972)年だったそうです。その後、ホームセンター市場は順調に伸び、平成27(2015)年で全国4600店舗、売上高約4兆円となっています。  広大な売場で大工用品、園芸、ガーデニング、家具インテリア、家庭用品、ペット、レジャー、家電と幅広い生活分野の商品を取り扱い、商品点数が10万アイテムを超える店舗もあります。中心的なジャンルである大工用品は2~4万アイテムと相当多く品揃えしています。  さて、そのような数多くのアイテムの中で、売上№1商品は何だと思いますか? あまり知られていないと思いますが、ホームセンターの売上№1商品は「軍手」です。  ホームセンターでなぜ軍手が売上No.1なのかというと、さまざまなDIY分野において最も基本的な用品で、高い実用性が支持されているからだと推測されます。

軍手を14400組もボリューム陳列する必要はあるのか?

 図1は、埼玉県にある大型ホームセンターA店の軍手販売の様子を示したものです。1日40個(週間では288個)が1年間の平均販売数量となっています。なお、1個とは、軍手12双の束を指しています。

図1 ホームセンターA店のある年の軍手の販売数量の推移

 メイン売場の陳列什器はヨコ12個×タテ10個×奥行き4個 =480個が最大陳列量で、図2の網かけの部分が1日の販売数量という目安になります。
軍手売場の陳列量と販売量

図2 軍手売場の陳列量と販売量

 この店の軍手の陳列・在庫量は全部で1200個ほどですが、果たしてここまでの陳列在庫量が必要なのでしょうか。なお、この店舗では毎週2回、補充仕入れ(予測はせず売れた分だけ補充する仕入れ方法)を行っていました。  そこで、当法人が開発したT・AI(T=Time/時間の人工知能)という「時間とともに変化する量を扱う最先端のコンピュータシステム」を使って、欠品しないように、かつ十分な陳列も確保できる週一回の発注・在庫量計算を行ってみました。  結果は図3にあるように、現状の平均在庫1200個が654個と大きく減らせることが示されました。それはちょうどバックヤード在庫が不要であることを物語るとともに、現状の週2回の商品受入・陳列作業を週1回に減らすことができるという効率向上も実現するものでした。

図3 軍手の販売・在庫数量とT・AIによる在庫予測結果

「適正在庫」から「ボリューム陳列」を工夫しようと考えればいい

 この事例でお伝えしたいことは、「売上にはボリューム陳列が大事という常識を疑ってみよう」ということです。  マーケティングで、質量が整ったボリューム陳列が顧客の購買行動に大きな影響を与えるとよく言われるからか、業界関係者には在庫・陳列量が減ると集客に悪影響を与え、売上が低下する危険性があると考える人が多くいます。ボリューム陳列の効果は、一般論としては理解できますが、この事例のように在庫・陳列量をあらためて見てみると、はたして妥当と言えるのでしょうか。  「ボリューム陳列」は「過剰在庫」を肯定し、「適正在庫」の意識が希薄になりがちです。だから、「適正在庫」から「ボリューム陳列」を工夫しようと考えればいいのです。  また、在庫の減少により売場にスペースができるので、そこにどうやってボリューム陳列をするのか、あるいは新しい企画提案を打ち出すべきかなど、新たな売場作りのチャレンジも生み出すでしょう。 【小松秀樹(こまつ・ひでき)】 NPO法人ビュー・コミュニケーションズ副理事長 1950年、秋田県生まれ。東京大学経済学部卒。2000年、通産省の支援を受け、IT技術を活用したビジネスソリューション研究会(上場企業約100社が参加)を母体に、野村総合研究所、日本経済新聞社らと共同でNPO法人ビュー・コミュニケーションズを設立。日本企業の収益を向上させ、国際競争力を上げることを目的に、AIをベースにした我が国独自の最新のIT技術の実用開発・普及に取り組む。2016年より滋賀大学特別招聘講師に就任。最新刊は『なぜあなたの予測は外れるのか――AIが起こすデータサイエンス革命』(育鵬社)。
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