データは長期で見て、短期で微調整しなさい――予見できない大きなショックにどう対応するか

原油価格の暴落を読めなかったのはなぜか

<文/小松秀樹>  ちょうど1年前になりますが、2016年3月、「大手商社が創業以来初の赤字を計上」と各新聞で報道されました。各社の個別事情はさておき、NY原油価格(WTI価格)の月次推移をもとにこの問題を考えてみることにします。  世界の原油価格の中で最も有力な指標がこのWTI価格と言われています。WTIとは、ウエスト・テキサス・インターミディエートという硫黄分の少ない米国テキサス産の良質原油のことで、ニューヨークのマーカンタイル取引所で原油先物として取引されています。  WTI価格はもともと北米の原油価格の指標ですが、実需・投機とも市場参加者が多岐にわたり、取引量が大きく流動性も高いため、今では国際的な指標として日々経済ニュースに登場します。

図1 原油価格(WTI)の変動

 図1は、12年間のWTI価格の変動を示しています。2008年のリーマン・ショック前後の急騰・急落を除き、右上がりの傾向を示しています。ただし2011年以降は80ドル/バーレルから110ドル/バーレルの幅で横ばいとも見えます。  また、2012年~2013年の頃は「シェールガス革命」がありました。シェールガス革命とは、今まで困難であった地下2000~3000mの頁岩(けつがん)、つまりシェール層から石油や天然ガスの採掘が可能となり、世界のエネルギー事情が大きく変わったことを指します。これにより、米国でのシェールガス開発が急ピッチで拡大しました。  このような市場動向では、大手商社が2011年以降に大型のエネルギー投資を行ったとしても不思議ではないように見えます。  しかし2014年以降事態は一変し、WTI価格が暴落したため、冒頭に紹介したような新聞報道につながります(図2)。

図2 原油価格(WTI)の暴落

 いったいなぜ、このようなことが起こってしまったのでしょうか。そして、このような事態を予測することなどできるのでしょうか。

長期価格推移を10~15年程度で見ていては判断を誤る

 人によっては、このような現象は予測不能なので、仕方がないのではないか、との意見もあるかもしれません。  しかし、図3を見ると必ずしもそうとは言えないのではないでしょうか。これは、原油価格の変動を1970年から長期的に見たグラフです。戦後の高度経済成長期以降、2度のオイルショックを除き、原油市場の需給バランスの取れた価格はおおむね15~30ドル/バーレルでした。

図3 原油価格(WTI)の長期的変動

 しかし、21世紀に入りまもなく、巨額の投機マネーが原油市場に流入し、原油価格が異常な高騰を示します。リーマン・ショックを除き、10年ほど狂乱状態が続きました。そして2014年以降にバブルがはじけ、価格暴落を招いたのです。  大手商社のエネルギー資源投資が裏目に出て赤字計上となった訳ですが、本来資源投資は長期回収が基本です。今回の件は、回収可能性を判断する材料としての長期価格推移を10~15年程度で見ていては、判断を誤ることを物語っています。  もし、投資回収機関が10~20年であれば、少なくともその数倍に当たる40~50年のデータにより、全体俯瞰的に判断をすることが大切ということです。

「鳥の目」で判断し「虫の目」でこまめに修正

 私たちは10~15年一定の状態が続くとその状態に慣れ、「最近は××だから今後も××だろう」と考えやすくなります。  では私たちはこれらの事例から、ショック発生時に、このような事態に陥らないようにするためにどのような教訓を導き出せるでしょうか。そのポイントを2つ述べておきます。 ①【虫の目】 予見できない大きなショックが起こった時は、前年比ではなく直近データを見て、こまめな修正をしばらく(半年~1年)繰り返すことが大切です。ちなみにT・AIは自動的にこの作業を行います。 ②【鳥の目】 一方で、長期意思決定をする際は、回収期間の数倍(2~3倍)のデータをとり、全体を俯瞰した上で判断するよう心がけてください。ここ数年こうだからといった論理は、現実にしばしば裏切られます。 【小松秀樹(こまつ・ひでき)】 NPO法人ビュー・コミュニケーションズ副理事長 1950年、秋田県生まれ。東京大学経済学部卒。2000年、通産省の支援を受け、IT技術を活用したビジネスソリューション研究会(上場企業約100社が参加)を母体に、野村総合研究所、日本経済新聞社らと共同でNPO法人ビュー・コミュニケーションズを設立。日本企業の収益を向上させ、国際競争力を上げることを目的に、AIをベースにした我が国独自の最新のIT技術の実用開発・普及に取り組む。2016年より滋賀大学特別招聘講師に就任。最新刊は『なぜあなたの予測は外れるのか――AIが起こすデータサイエンス革命』(育鵬社)。
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