筋膜はリリースしたら「統合」しなさい――元に戻りにくい身体を作る“ロルフメソッド”とは

 今、ちまたでは「筋膜リリース」が、カラダのあらゆる痛み・コリ・むくみを根治し、美容、ダイエットにも効果絶大と話題だ。「筋膜」とは筋肉を覆っている薄い膜のことだが、この筋膜に働きかけることで、例えば、今まで揉んだりほぐしたりしてもすぐに元に戻ってしまうしつこい「肩コリ」などが根本から改善できるというのである。  筋膜への施術については米国でさまざまな方法が開発され、その後、日本に導入された。中でも有名な施術のひとつが生化学者アイダ・ロルフ博士(1896~1979年)によって開発されたロルフメソッド、ストラクチュラル・インテグレーション(以下、S・I)である。  今回は、自身もS・Iにより身体の痛みから解放され、その後、S・Iを学び、米国GSI(Guild For Structural Integration)に認定された、ロルフ構造統合メソッド・プラクティショナーの吉澤直子氏に話を聞いた。

筋膜の水分が失われるとコリになる

(米国GSI認定)ロルフ構造統合メソッド・プラクティショナーの吉澤直子氏

 肩こりに悩まれている多くの方はご経験があると思いますが、マッサージなどでほぐして楽になっても、またすぐに元に戻ってしまうということがあります。コってはほぐす、の繰り返しで永遠にそこから抜け出せなくなってしまいます。さらにそれが積み重なると、どんどん、もっと強くほぐさないと効かなくなってきて、最終的には、痛み止めの注射を打たないと日常生活もままならない、そんな体になってしまわれた方も実際にお見受けすることがあります。  筋膜(きんまく)というのは、体中にはりめぐらされている、コラーゲンやエラスチンが溶け込んだ組織です。あるものは筋肉の繊維一本一本を包む薄い膜であり、あるものは骨や内臓を包んでいます。とり肉を調理するときに見られる薄い膜がありますが、あれも筋膜です。筋膜は本来多くの水分を含み、それぞれの臓器や筋繊維を保護し、それぞれがすべりあうような潤滑な動きを助ける働きをしています。  その筋膜ですが、人が生きていく中で、同じ姿勢を長く続ける必要があったり、特定の部分だけに過度な負担をかけるような活動をし続けたりすると、その部分の筋膜の水分が失われて、にかわのように、固く癒着してしまうことがあります。その結果、本来なめらかにすべりあうはずの筋肉同士が、まるで接着剤ではりつけられたようになってしまい、それぞれが自由に動けなくなってしまいます。そうなると、本来の、自由で機能的な動きが制限されるだけでなく、固着されて動かなくなることによって血流も滞り、流れが悪くなることによって、そこに疲労物質や老廃物が蓄積してコリになってしまいます。

全身の筋膜に働きかけるS・I

 S・Iとはストラクチュラル・インテグレーション、Structural(構造)・Integration(統合)の略で、米国の生化学者アイダ・ポーリン・ロルフ博士によって開発され、科学的に実証されているボディセラピーです。  S・Iでは、全身の筋膜に焦点を当てています。筋膜という全身に張り巡らされている結合組織に働きかけ、順序立てた方法でワークすることよって、「重力の中で構造的に最善のポジションをとる身体に進化し続けていく」ことを目指します。

人間は常に「重力」のストレスを受けている

 ただし、S・Iは治療、医療行為ではありません。“結果として”不調が改善することはよくありますが、それを目的とはしていないのです。痛みやコリなど、問題の部分だけを治そうという意図で働きかけることはありません。あくまでも全身を視野に入れて働きかけます。 なぜなら、身体の一部分だけを変えても、重力の中で生活すると、すぐに元のバランスに戻ってしまうからです。  普段ご自身が「重力」の中にいることを意識して生活されている方はかなりの少数派ではないかと思われますが、地球上で生活する私たち人間の身体は常に「重力」に多大な影響を受け続けています。人間の身体は生まれた時から休むことなく地球の重力によって、とてつもない力で引っ張られ続けているのです。

バランスを失った身体にとって「重力」は敵になる

 私たち人間のほとんどがバランスを失った身体の持ち主であるとアイダ・ロルフ博士は言っています。人間が身体のバランスを失う理由は人それぞれさまざまありますが、バランスを失った身体にとって重力は、簡単に押しつぶそう、引きずり倒そうとしてくる敵になってしまいます。重力という勝ち目のない相手を敵に回して、日々闘っている。当然その結果として、年月を経ると腰や背中の激しい痛みや、慢性的な疲労感に悩まされるようになってくるのは明らかです。  重力と闘い続けた結果起きている痛みに焦点を当てても一時しのぎにしかならないのに、また、バランスを失ったままの身体で、巨大な敵との闘いの日々に戻っていくようなものではないでしょうか。

「重力にサポートしてもらえる体」を目指すS・Iの施術法

自身もS・Iを受け、いい姿勢でいることが楽になった、と語る吉澤氏

 S・Iでは、言わば「トータルコーディネート」で身体のバランスをアップグレードさせることによって、重力と闘う代わりに「重力にサポートしてもらえる体」をめざしています。 詳しくは別の機会にお話しますが、S・Iではプラクティショナー(施術者)がクライアントさんの身体に適度な圧力を加え、順序立てた方法で、全身の筋膜に働きかけます。これは、圧力によって形を変えようとしているのではなく、身体にとっての新しい選択肢を提案・提示しているのです。  施術はゆっくりと、時間をかけて、その人に合わせておこないます。クライアントさんは、施術をただ「受ける」のではなく、プラクティショナーの手助けのもと、主体的に自身の身体に働きかけます。  こんなことを言うと「何をさせられるのだろう?」と不安に思われるかもしれませんが、大丈夫です、例えば横になった状態でプラクティショナーの誘導のもと、小さく膝を曲げたり伸ばしたりするような簡単な動きをするだけです。  S・Iは10回のセッションで成り立っています。1回1時間程度のセッションを、1週間~2週間に1回程度のペースで進めていきます。10回で構成されていることや、次のセッションまでに少し時間を置くこと、各セッションの順序にも、それぞれに深い意味があります。それぞれのセッションは次のセッションへの準備にもなっています。

筋膜が最善のポジションに導いてくれるようになる

 筋膜は、その中に無数の神経細胞が分布されており、それ自体に知覚があるということが研究によって証明されています。整えられ、バランスをとることができるようになった筋膜は、私たちの思考などよりもはるかに賢く、重力に反応して、その時、その人の構造とって最善のポジションに私たちを導くようになるのです。  それに気づくには、まず、自分の体が“今”どういう状態なのか“感じる”ことが必要になってきます。一見簡単なようですが、これが意外と、頭で思考することに慣れてしまった私たち現代人にとっては難しいことなのかもしれません。

重力を味方につければ「いい姿勢でいることが楽になる」

 身体が整い、バランスがとれてくると、重力の中に存在することが楽になり、それまでよりも、少量のエネルギーを使うだけで、今まで困難に思えていたことが比較的簡単にできるようになります。疲れる姿勢(重力を敵に回す姿勢)にも気づけるようになるので、あえて重力に押しつぶされるような姿勢は取りたくなくなるでしょう。また、身体はより柔軟でいることができ、呼吸も楽になるので、さまざまな方面でのパフォーマンスの向上も期待できます。さらに、身体が安定することによって、心の状態にも変化が訪れるということは誰でも容易に想像することができると思います。

リリースして「統合」することによって、元に戻りにくい身体になる

 S・Iの最大の特徴は「統合」して終わることです。ただバラバラにゆるめて、さようならということは、しません。新しくなった体をちゃんと使えるようにまとめてから終わります。10回のセッションを終えた後も“重力”というヒーラーのもとで、半年から1年ほどかけて統合は続きます。  S・Iは身体全体の調和を目指します。そしてその変化は、クライアントさん自身の、「潜在意識下の知性による選択」による、つまり他人に力づくで、勝手に変えられたのではなく、自分の身体の組織がそうなろうと選択した変化なので、S・Iの変化は元に戻りにくいとも言えるでしょう。  私たちプラクティショナーは、クライアントさんの身体が今まで気づいていなかった選択肢もあることを提示、提案するという形で変化のきっかけをつくるお手伝いをし、主体であるクライアントさん自身の生命力の選択を尊重し見守ります。いくら良いものだと思っていても、それを必要としていない人に押し付けるようなことはしません。もし、そんなことをしても、より良い変化は起こらないでしょう。  S・Iのより良い成功には、他人任せではない、クライアントさん自身の自主的な意思、ご自身の体に対して責任を持っているという意識、変わりたいと思う気持ちが必要なのです。  いろいろと小難しいことも述べてきましたが、「いい姿勢でいることが楽になる」これは私が自分自身の身体でロルフメソッドを通して、今も現在進行形で実際に体験し続けていることです。ご興味があればご一報いただければ幸いです。 <取材・文/日刊SPA!プラス編集部> 【吉澤直子(よしざわ・なおこ】 ロルフスピリット主宰。米国GSI認定ロルフプラクティショナー。20代の時にダンス、ヨガ、太極拳などを始めたことをきっかけに、腰やひざなど身体を痛めることが増え、さまざまな治療に通う傍ら、身体の使い方や構造についての探求を続ける。ヨガインストラクターとしても働くが、その後、腰・ひざ痛が悪化、ひどい痛みに苦しみながら対症療法を続けるが、どれも一時しのぎでしかなかった。その時はこれが一生続くのかと、痛みと悲しさにやりきれなさを感じていたが、そんな中「赤ちゃんの頃のような体に戻れる」という、うたい文句に惹かれ、半信半疑ながらも、もしそうなったら夢のようだな。と期待をもちつつロルフメソッドを受け、プラクティショナーの方の伝えてくださる、今まで自分の思ってもみなかったような斬新な視点からの言葉を聞いて感銘を受け、「自分が長年探し続けていたものはこれだったんだ」と確信する。その後、自身もロルフメソッドを学び、トレーニングの課程を修了、GSIのプラクティショナーとしての認定を受ける。現在は、都内で施術を行っている。 もっと詳しく知りたい方、予約などはウェブサイト「ロルフスピリット」まで。
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