カネで読み解くビジネスマンのための歴史講座「第24講・ガーシェンクロン「キャッチ・アップ理論」

アレクサンダー・ガーシェンクロン

アレクサンダー・ガーシェンクロン

 ハイパーインフレはなぜ起きた? バブルは繰り返すのか? 戦争は儲かるのか? 私たちが学生時代の時に歴史を学ぶ際、歴史をカネと結び付けて考えることはほとんどありませんでした。しかし、「世の中はカネで動く」という原理は今も昔も変わりません。歴史をカネという視点で捉え直す!著作家の宇山卓栄氏がわかりやすく、解説します。

19世紀イギリスのデフレ


 20世紀半ばに活躍したロシアの経済学者アレクサンダー・ガーシェンクロンという人物がいます。ガーシェンクロンは、「後発国は先発国の開発した新しい技術を導入しながら、工業化を推進するため、後発国の技術進歩は急速であり、経済成長率も先発国を上回る」、と主張しました。

 先発国は長い時間をかけて、技術開発を行い、その進歩も緩慢ですが、後発国はその技術モデルを模倣(コピー)し、一気に追い付くことができるのです。

「コピーによって、追いつく(キャッチ・アップ理論)」という例が、前述のプロイセン(ドイツ)やフランス、そしてアメリカや日本でした。アメリカは18世紀半ば、日本は18世紀後半にそれぞれ「キャッチ・アップ」をはじめます。

 イギリスは19世紀初頭までに、産業革命を一通り終え、高度成長の先駆となっていました。18世紀から100年以上かけて、イギリスの産業革命は、ワットのような粘り強い技術者たちの開発と改良を経て、同国の産業の発展に寄与してきました。

 後発国は、イギリスが発明した蒸気機関の動力装置や製鉄法を、良く言えば熱心に学び、悪く言えば盗み、模倣したのです。イギリスが100年以上かけて、ようやく開発した技術を、ドイツ、フランス、アメリカ、日本は僅か20年~30年で、自分のものとしました。

 各国が工業技術を習得し、19世紀に工業製品が大量生産されます。開発先駆者のイギリスは否応なく、価格競争に巻き込まれ、19世紀以降、長期のデフレ基調に陥ります。

「キャッチ・アップ」される日本


 日本において、明治維新の4年後の1872年、イギリス製の蒸気機関車が導入されました。その後、蒸気機関車を国産化するべく、明治政府は資金や人材を集中投下し、技官をイギリスに派遣し、イギリス技術者をヘッドハンティングしたりして、官民上げて、機関車のコピー生産に取り組みました。

 その結果、1890年代には国産機関車を量産できるようになります。日本の成功は、ガーシェンクロンの「キャッチ・アップ理論」の典型例と言えます。

 日本はかつて、技術をコピーし、盗む側でしたが、現在は、コピーされ、盗まれる側に立っています。後発国の企業は、日本の企業の技術者をヘッドハンティングし、日本の技術に倣い、優れた製品を製造しようとします。

 たとえ、国際的な特許規制が整備されても、技術は国境を越え、必然的に模倣されてしまい、所詮、取り締まることなどできません。ガーシェンクロンが主張するように、後発国には、どの時代においても、模倣の優位性があるのです。

 テクノロジーは第一に、労働生産性を上げ、生産物の量の拡大によって、大きな利潤をもたらします。第二に、生産技術力を高め、生産物の質の向上によって、大きな利潤をもたらします。

 特に、近年において、生産物の質の向上のための技術革新を推進していくことが、更なる大きな利潤をもたらす起爆剤となります。日本は「技術立国」と言われています。

資源に乏しい日本にとって、豊かな社会と成長を維持していくためには、テクノロジーの革新を不断なく推進するしか、方法がありません。

【宇山卓栄(うやま・たくえい)】
1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。予備校の世界史講師出身。現在は著作家、個人投資家。テレビ、ラジオ、雑誌など各メディアで活躍、時事問題を歴史の視点でわかりやすく解説することに定評がある。最新刊は『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)。

世界史は99%、経済でつくられる

歴史を「カネ=富」の観点から捉えた、実践的な世界史の通史。




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