カネで読み解くビジネスマンのための歴史講座「第25講 ・ウォーラーステイン『覇権国家の3条件』」

イマニュエル・ウォーラーステイン

イマニュエル・ウォーラーステイン

 ハイパーインフレはなぜ起きた? バブルは繰り返すのか? 戦争は儲かるのか? 私たちが学生時代の時に歴史を学ぶ際、歴史をカネと結び付けて考えることはほとんどありませんでした。しかし、「世の中はカネで動く」という原理は今も昔も変わりません。歴史をカネという視点で捉え直す!著作家の宇山卓栄氏がわかりやすく、解説します。

生産、流通、金融


 産業革命をいち早く達成したイギリスは世界の覇権を握ります。社会学者のイマニュエル・ウォーラーステインによると、覇権国家は「圧倒的な生産力」、「圧倒的な流通力」、「圧倒的な金融力」の三つの条件を持ちます。近世以降、そのような覇権国家となった国はオランダ、イギリス、アメリカの3つの国だけであると、ウォーラーステインは述べています。

 ウォーラーステインは、大航海時代のポルトガルやスペインは交易において優位を保っていましたが、両国とも生産や金融が発展せず、三つの条件を充分に満たしていないため、覇権国家とは言えない、としています。

 経済史家チャールズ・キンドルバーガーも国際的な貿易力、金融力、資本力などを覇権国家の条件として挙げています。ウォーラーステインの師であったブローデルも、ほぼ同じ条件を挙げています。

アリギ「資本蓄積のサイクル」


 こうした覇権国家の興亡を資本蓄積のサイクルで捉え、話題となったのが『長い20世紀』の著者ジョヴァンニ・アリギです。アリギは、資本蓄積が生産拡大を最初に引き起こし、次いで金融拡張が起こり(後節詳述)、それが自壊して、資本は新しい舞台を求めて移動し、次のサイクルを形成する、と主張しています。

 アリギは資本蓄積の歴史的な変遷を図のように、ジェノヴァ・サイクル、オランダ・サイクル、イギリス・サイクル、アメリカ・サイクルという四つのサイクルで捉えています。

 アリギの著書のタイトルにもなっている「長い20世紀」とはブローデルやウォーラーステインが近代資本主義の資本蓄積過程とした「長い16世紀」を踏まえたものです。

 ブローデルやウォーラーステインが「長い16世紀」を前提にして、その後の近代を分析したのに対し、アリギは「長い20世紀」を前提にして、近代を遡って分析しようとしました。

 世界には覇権国家という「中心」が各時代にあります。世界の富はその「中心」に向かって集まり、「中心」や「中心」に追随するセクターだけが、利益を上げていく仕組みになっています。

 次回以降、近代の「中心」であったイギリスの覇権構造を分析し、イギリスの収益システムの実態を捉えていきましょう。

【宇山卓栄(うやま・たくえい)】
1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。予備校の世界史講師出身。現在は著作家、個人投資家。テレビ、ラジオ、雑誌など各メディアで活躍、時事問題を歴史の視点でわかりやすく解説することに定評がある。最新刊は『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)。

世界史は99%、経済でつくられる

歴史を「カネ=富」の観点から捉えた、実践的な世界史の通史。





おすすめ記事