白河館まほろんが面白い④――企画展示「JOMONワンダーランド」も面白い
福島県出土の土器と土偶の造形美
まず、福島県から出土したさまざまな縄文土器が展示されている。左の画像は、この企画展示のパンフレットから引用したものだが、どれもが造形美にあふれており、とりわけその中の「まるでヤカンみたいな土器」にはびっくりした。造形において現在のヤカンと同じだ。このヤカン土器は、柴原(しばはら)A遺跡(福島県三春町)出土のものだ。 後で調べてみたが、これは注口(ちゅうこう)土器と呼ばれ、縄文時代の中期に出現し、後・晩期に発達したという。 また、煮炊きに用いられた縄文土器の隣には、現代の鍋が一緒に展示されている。現在発見されている最古の縄文土器は、今から1万6000年以上前であり、形や機能は変われども、日本人の生活様式の原点は変わらないのだなと思い至る。 企画展示室の中央には、土偶も展示されている(冒頭の画像)。この荒小路(あらこうじ)遺跡(福島県郡山市)の土偶は、2009年9月~11月に大英博物館で開催された「THE POWER OF DOGU」に出展されたものだ。イギリスなどは、日本の縄文文化に関する関心が非常に高く、盛況だったようである。土偶の「おっぱい」に注目
この土偶は、細面のなかなかユニークな顔立ちだ。その右側には、背後しか見られないが、前述の柴原A遺跡から出土したハート型土偶が置かれている。土偶は意図的に壊されるケースが多いが、これはほぼ完全な形で出土したという。この土偶の解説文が左側の画像だ。 小学校6年生にも分かるように、解説が明快だ。例えば「おっぱい」では、「ほとんどのドグウには、おっぱいがあるよ。大事だね、おっぱい」と記述されている。 そう、おっぱいは赤ん坊に栄養を与える大事な機能を持つ。ここに土偶が作られた背景がある。ほとんどの土偶が、乳房やふくらんだ下腹部を表現していることから女性像と見なされ、子孫繁栄、五穀豊穣を祈願するものと捉えるのが一般的である。そうした難しい解説を行わずに、「大事だね、おっぱい」と解説する学芸員の発想の柔軟性にいたく感心した。縄文土器と現代の鍋を並べる展示のセンスも同様だ。 また、「縄文時代の歴史は変わる?」という二つの解説もいい。「縄文チェンジ」と題して、次のように解説する。 ①これまで縄文時代は「狩り・採集」で生活していたと言われていたけれど、最近では、大きな実のなるクリやダイズなどを選んで育てていたらしいこともわかってきたよ。石のスコップでほったあなに、たくわえていたみたいだよ。縄文時代が長くつづいたナゾがすこしずつとけてきたね。 ②縄文時代は、1万2000年前ころからと言われていたよ。最近は、1万6000年前ころには、縄文土器が使われていたと考えられているよ。 縄文時代の始まりをいまだに1万2000年前としている旧態依然の歴史教科書がある中で、この二つの解説は、最新の知見を反映したものであり、まほろんの展示の正確性と意識の高さがうかがわれる。 この企画展示を見た子供たちは、自分たちのはるかかなたの祖先である縄文時代の人々が、自然を上手に利用しながら様々な工夫を行い生活をしていたと気づくのではないか。 【⑤に続く】(文責=育鵬社編集部M)ハッシュタグ
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