忍者発祥の地として知名度が高い伊賀市ゆえに、とんだ事件に巻き込まれたこともある。年間1000万円近くの収入が得られる忍者のパフォーマーが不足しているので、世界に向けて伊賀市が広く人材を求めているというニュースが、7月に流れた。
この騒動は英BBCでも「Japan’s Iga city ‘does not need ninjas’ after reports it was hiring」という見出しで報道された。BBCによれば、ある米ラジオ番組が伊賀市が忍者を基盤にした観光戦略の拡大にあたり、労働者不足に悪戦苦闘していると報じたことが、騒動の発端だったようだ。その中で、忍者役が不足しており、役者は年間約2万3000~8万5000ドル(255~943万円)稼げると語った。
この番組が話題となったのだが、各所で「伊賀市が年間8万5000ドルで忍者を募集している」と報道され、伊賀市や伊賀上野観光協会などに23カ国から少なくとも115件の忍者希望者の問い合わせがあったという。
だが、これは誤報だった。この騒動に対して伊賀市は、「伊賀市では忍者の募集はしておりませんので、ご注意ください」と注意を呼びかけた。
こういったフェイクニュースが世界を駆け巡るということは、それだけ日本の忍者に対する海外の関心が高いことを物語っている。
問題なのはアメリカを中心に、日本の本物の忍者について修行したと言っている怪しげな自称忍者たちが増えていることだ。そこで教えられているのは忍術とは全く関係ないスポーツの一種なのだが、多くの外国人がこれが本物の忍術だと信じ込んでしまえば、偽物が本物になってしまう。
忍術や忍者について正しい情報を伝えていくのがいかに難しいか、海外でのNinja 研究者と話しているとそのことが実感される。だからこそ正確な情報発信が求められるのである。
80年代に人気だった「さすがの猿飛」がグローバル化する時代
『さすがの猿飛』がグローバル化?
1980~84年に『増刊少年サンデー』に連載された『さすがの猿飛』(作・細野不二彦)という学園ラブコメの忍者マンガを覚えているだろうか。テレビアニメ(1982-84)も人気で、今40〜50代の人なら、丸々太った主人公の猿飛肉丸、怒らせると恐いくノ一忍者霧賀魔子、女子のスカートを風でめくり上げる「神風の術」を思い出すことだろう。あの頃は日本も元気で、ノーテンキなマンガがあふれていた。 その『さすがの猿飛』が2017年、セブン-イレブン限定販売の月刊マンガ雑誌『月刊ヒーローズ』(小学館クリエイティブ発行)で、30年ぶりに完全新作の連載を再開。その名も『さすがの猿飛G(グローバル)』肉丸&魔子ちゃんのコンビが復活! 『さすがの猿飛G』 (ヒーローズ)
忍者不足に悩む伊賀市が年収1000万円で人材を募集?
一方、忍術の聖地日本に憧れて、毎年多くの外国人が日本にやってくる。忍術の世界的ブランドとなっている三重県の伊賀市を2018年6月に訪ねた。 伊賀市は2017年に「忍者市」を宣言し、日本遺産「忍びの里 伊賀・甲賀」にも認定されている。2016年にG7伊勢志摩サミットが開催された際の外国人観光客用の案内板が今でも置かれていたが、それだけ欧米からの観光客が多いということだろう。三重県伊賀市にある伊賀流忍者博物館への案内板。2016年にG7伊勢志摩サミットが開催された際の外国人観光客用の案内板のため、日本語の他に、英語、フランス語、イタリア語、ドイツ語が表示されている。
「甲賀流忍者検定試験」にチャレンジ
一方、今や忍者はインバウンド増加の重要な切り札になりつつある。伊賀市をはじめ、滋賀県甲賀市、真田忍軍の発祥の地の信州上田市や、正統派の忍術が今でも伝承されている信州戸隠、風魔忍軍がいた小田原市、九州忍者の存在が最近明らかになった佐賀県嬉野市などでは、忍者を活用して外国人観光客の獲得に乗り出そうとしている。 しかし忍者を単なる観光資源の一つとして売り出すだけでは心もとない。やはり地元のオリジナルコンテンツは大事にしなくてはならない。忍者がその地域でいかにして生まれ、どんな活躍をしていたのか、どんな資料が残っているのかという本格的な調査が不可欠だ。そうしないと海外のNINJAブームに飲み込まれて 何やら訳の分からないイメージがその地域に定着していくことになるだろう。 その意味では伊賀と並び称されるほどのブランド力のある甲賀ではユニークな活動が続けられている。伊賀が海外に向けて情報を発信しているのに対して、甲賀では国内の忍者ファンや研究者を対象に、ここ10年の間、「甲賀流忍者検定試験」を行なっている。「甲賀の忍者」が特集された季刊誌『湖国と文化』2018年夏号(発行:公益財団法人びわ湖芸術文化財団)。巻頭カラーグラビアでは甲賀流忍術屋敷(甲賀市甲南町竜法師)と甲賀の里忍術村(同市甲賀町隠岐)の様子を紹介。また、特集では甲賀市教委職員や甲賀忍術研究会会員らが忍者について論じている。
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