マンガにも学会があるのを知っていますか? 第19回日本マンガ学会レポート

<文/橋本博 『教養としてのMANGA』連載第11回>

第19回日本マンガ学会熊本大会開催

 6月22日、23日、ただでさえ暑い空梅雨模様の熊本に、マンガ熱に浮かされた研究者たちが続々と集結し、第19回日本マンガ学会が開催された。  今回のテーマは「時代を超える時代劇」だった。 「時代劇は、戦前から、舞台、映画、テレビ、そして漫画においても数多く描かれてきました。子供たちのチャンバラごっことしても広く親しまれ、海外からみた日本のイメージにも大きな影響を与えています。しかしその表現は、時代とともに移り変わってきました。本シンポジウムでは、マンガにおける時代劇の歴史をたどるとともに、作家を中心に、現代の時代劇についても語り合います。」(大会チラシより)

日本マンガ学会第19回大会チラシ

 2000年にスタートした日本マンガ学会は、京都と東京で交互に行われ、3年に1度地方大会として全国を巡回する。九州では北九州に引き続き今回の熊本が2回目となる。  今年の熊本大会は地方大会としてはのべ300人を超えて、これまでで最大の参加者となった。学会後に行われるエクスカーション(体験型の見学会)も早々と定員に達して締め切り。ホスト役を務めたNPO法人熊本マンガミュージアムプロジェクト(クママン)のメンバーも、予想を超える人数にてんてこ舞いだった。

熊本大学に集結した研究者たちと学生ボランティア。熊本県庁前のルフィ像の前にて。

 6月21日金曜日には、シンポジウムのゲスト出演者が打ち合わせのために1日早く到着。漫画家みなもと太郎氏、貸本マンガ研究者成瀬正祐氏、大会委員長の藤本由香里明治大学教授、司会の宮本大人明治大学准教授らと、受け入れ先の熊本大学文学部の鈴木准教授が初めての顔合わせを行う。  大会のテーマに合わせて打ち合わせをするはずが、参加者たちが熊本の食材に舌鼓を打つものだから話はなかなか先に進まない。果たして明後日のシンポジウムに間に合うのだろうか、と気をもんでいたらさすがプロ集団、最後の10分で話はまとまった。  そして22日の大会初日を迎える。学会の初日は若い研究者たちの研究発表の場となっている。発表希望者数もこれまでで最多で、会場の数を増やさなければならないほどの盛況ぶりだった。熊本が会場となっているだけに、熊本関係の発表は私も含めて6回と最多で、熊本のマンガ熱を全国にアピールする絶好の機会となった。  熊本大学文学部に今年度から設置された現代文化資源学ではマンガ、アニメの研究も行うので、その御披露目も兼ねた学会誘致だった。  学内には「熊大でなぜマンガ?」と訝る声もあるそうだが、学会の思わぬ盛況ぶりを見て、マンガの力を改めて認識したに違いない。熊本大学文学部の会場の受付にはこの日のために集まってくれたクママンのボランティアメンバーのほか、崇城大学の小川氏、尚絅大学の三浦氏の顔も見える。

初の著書『教養としてのマンガ』販売

 この日の私のミッションは、今回の学会開催に合わせて先行発売される私の初めての著作『教養としてのマンガ』(扶桑社新書 6月30日発売)を販売することだ。定価より少し割引して要望があれば私のサインを書き込むというサービス付きだが、販売の場所に人があまり通らないせいか、最初の食いつきはパッとしない。  そこで研究発表をしている会場に直接乗り込んで本の宣伝を始めたところ、人が少しずつ増えてきた。それでも初日の販売数は20冊、これでは全く足りない。そこで知り合いに個別に声をかけたり、明日のシンポジウムの会場で私が登壇した際に本の宣伝を行うこととした。

販売会場の光景

 そして23日のシンポジウム当日、ここが本の売れ行きを左右する正念場だ。シンポジウムに登壇した際の自己紹介で本の宣伝した結果、売り場を訪れる人数が増え、一気に50冊が売れていった。やはり売り場に私が張り付いていれば売れていくのだが、ホスト役も兼ねているのでそうもいかない。学会中にこの本を読み終えた人たちからはこんな声が聞こえてきた。 「熊本地震が熊本のマンガ事情を一変させたのがよくわかった。」 「文章が読みやすく一気に読み終えた。」 「カバーのイラストが本人よりもかわいい。」 「大学の授業のテキストにぴったりなので使ってみたい。」 「全国的なマンガ情報はよく伝わってくるが、地方のことがよく分からなかったので役に立った。」 「巻末などに挿入されているマンガ関連施設の中には知らないところがたくさんあって驚いた。」

「忍者マンガ」について発表

 シンポジウムではこれまで合志マンガ義塾で発表してきた忍者マンガについて話した。 ①忍者マンガの系譜について 忍術マンガ(立川文庫などの講談本の影響) →忍法マンガ(山田風太郎などの小説の影響) →忍者マンガ(「忍びの者」などの映画の影響) →コラボマンガ(学園、ギャグ、エロ、SFなどとのコラボ) →NINJAマンガ(国際化した忍者の存在) ②忍者マンガの特徴 ○今回のシンポジウムのテーマである「時代を超える時代劇」の代表が忍者マンガではないか。 ○ミッションが与えられて独自のスキルを使ってそれをクリアするという構造は共通である。 ○忍術、忍法の必殺技のネーミング、必殺技を繰り出す時のタイミングの絶妙さが日本独自の方式。  川崎のぼる先生、みなもと太郎先生の話は、また機会があれば紹介したい。  翌日は45人の参加者を乗せたバスエクスカーションで合志マンガミュージアムへ。参加者の間では小さくもよく頑張っている施設だと好評をいただいた。ここでも本の販売ブースを設置して周知を図った。 この4日、実に充実した日々だった。

合志マンガミュージアムでの集合写真

橋本博(はしもと ひろし) NPO法人熊本マンガミュージアムプロジェクト代表、合志マンガミュージアム館長。 昭和23(1948)年熊本生まれ。熊本大学法学部卒業後、中央大学大学院法学研究科を経て、熊本県庁に入庁。退庁後、西ドイツにて国際機関勤務を経験。その後、大手予備校講師を勤める傍ら、昭和62年絶版マンガ専門店「キララ文庫」を開業(~平成27年)。平成23年「NPO法人熊本マンガミュージアムプロジェクト」を立ち上げ、平成29年には30年以上にわたり収集したマンガを利活用した「合志マンガミュージアム」開館を実現。マンガ『金魚屋古書店』(小学館)の巻末コラム執筆や崇城大学芸術学部マンガ表現コースの非常勤講師も務めるなど、文化遺産としてのマンガの保存・活用や、マンガの力による地方の活性化のため精力的に活動中。著書に『教養としてのマンガ』(扶桑社新書)。
教養としてのマンガ

『ONE PIECE』で熊本震災復興、まんだらけとの闘い、有害コミック問題と表現の自由、『ゲゲゲの鬼太郎』を生んだ日本の妖怪文化……。「伝説のマンガ専門古書店」元店主で文化庁マンガアーカイブ事業にも携わるマンガ評論界のレジェンドが語る! (帯イラスト:うえやまとち)





おすすめ記事