「下水資源」イノベーション: 都市に眠る宝の山6
下水から「水素」を作り、FCVを普及する
以上のように、さまざまなイノベーションを通して下水資源からガスや電力、熱が生み出されるようになってきているのだが、なかでもとりわけイノベーティブなものが下水から「水素」を生み出すという試みだ。 水素エネルギーは今、にわかに注目を浴び始めた「古くて新しい」エネルギー。そして、低環境負荷の自動車、いわゆるエコカーの普及は、温暖化対策の中でとりわけ重要な国家的課題となっている。 そのなかで、大量の温暖化ガスを排出するガソリン車、あるいは、電気自動車EVに代わる全く新しい自動車として「燃料電池自動車」(FCV)が注目されている。そしてこのFCVに必要なのが「水素」である。 FCVは走行過程において全く温暖化ガス等の有害物質を排出しないのがその最大の特徴だが、今、FCVはトヨタ、ホンダ等がその開発・商用販売等を進めている。 筆者も一度乗車したことがあるが、その加速等は極めて円滑でガソリン車に全くひけをとるものではない。そしてEVよりもより魅力的なのが、1回約3分の充填で650~750キロも走行可能だという点だ。有害ガスを排出するか否か
ところでこのFCVが、真に「エコ」の視点から有益であるかどうかは、その製造過程で温暖化ガスをはじめとした有害ガスを排出するか否かにかかっている。同時に、その普及においては「水素ステーション」の整備が喫緊の課題となっている。 これらの点に着目して今試みられているのが、下水から水素を生み出し、それを使った水素ステーションを運営する、という取り組みだ。 この取り組みは今、福岡市が三菱化工機、九州大学、豊田通商とともに作った共同研究体によって、国交省の支援を受けつつ福岡にて進められている。 そもそも下水からは大量の温暖化ガスが排出されるのは先ほど指摘した通りだが、その過程で排出されるバイオガスを活用すれば、その温暖化ガスを大幅に軽減できる。 福岡では、この点に着目し、メタンガス(CH4)と水蒸気(H2O)を反応させて水素を生成し(なお、その過程で排出される二酸化炭素は、吸着剤で除去している)、それを下水処理場に設置した「水素ステーション」で、FCVに供給する試みを進めている。 こうすることで、下水処理過程で生ずる温暖化ガスを大幅軽減すると同時に、FCVの普及を通してさらにガソリン車からの温暖化ガスの軽減を図ることができる、という次第だ。 今、COP21(気候変動枠組条約第21回締約国会議)を受けて温暖化対策が急務となっているわが国にとっては、このイノベーションは極めて効果的なものだと言えるだろう。 加えて言うまでもなく、この取り組みを通して資源の乏しい日本で石油依存を軽減させることにもつながることも踏まえれば、このイノベーションはわが国にとって極めて重大な意味を持ち得るものだ。 このイノベーションが全国に展開され、わが国のエネルギー問題、温暖化対策に大きく貢献できる近未来を祈念したい。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『強靭化の思想』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)、『令和日本・再生計画 前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)など多数。ハッシュタグ
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