鉄道が導く「都市と国土のイノベーション」1

生き物としての都市を支える交通インフラ

「都市は生き物だ」という言説は、都市計画論において百年以上にわたって繰り返し主張されてきた最も基本的なテーゼである。  実際、都市は「生まれる」こともあれば、「成長」することもあり、「病気」にかかることも「衰弱」することも、そして最終的には「死」に至ることもある。  しかも我々は、賑わいのある街を見れば「活力ある活き活きした街」と言い、ほとんどの店が閉まったシャッター街を見れば「死んだ街」と表現する。日常の暮らしの中で普段から、街は、「生き物」として扱われているわけだ。  ではそんな街という生き物の「誕生」や「成長」「衰弱」や「死」は何によってもたらされているのかといえば─その中心に位置するものこそ、「交通インフラ」である。  そもそも生き物である以上、細胞としての各部位が必要とする「養分」が供給されなければ、瞬く前に「壊え死し」することになる。  同じように「血管」としての「交通インフラ」がなければ、都市は生き続けていくことができないわけだ。 だからこそ、「都市の活性化」や「形成」、ひいては「国土の形成」を果たそうとするにあたって、交通インフラは巨大な役割を担うのである。

交通の持ち来たす変革は「最も根深く強い」

 例えば、幕末から明治維新の時代を、中山道の宿場町の庄屋・半蔵の目から描いた島崎藤村の小説『夜明け前』には、次のような一節がある。 「ただ馬籠駅長として実際その道に当たって見た経験から、彼の争えないと想っていることは、一つある。  交通の持ち来たす変革は水のように、あらゆる変革の中の最も弱く柔らかなもので、しかも最も根深く強いものと感ぜらるることだ。  その力は貴賤貧富を貫く。人間社会の盛衰を左右する。歴史を織り、地図をも変える」  半蔵は、中山道の宿場町の庄屋として、幕末から維新にかけて時代が激しく動く様を見つめ続けた。  そこにはさまざまな改革があった。なかには激しいものも抜本的なものも派手なものもあったに違いない。確かにそれに比べれば、「交通」なるものは圧倒的に地味なものに過ぎなかっただろう。  しかし、その変革のパワー、つまりはイノベーションの力は、それらのあらゆる改革の中でも「最も根深く」そして「最も強い」ものだと、半蔵は喝破したのである。  そしてその力は、身分も貧富の差もなく、誰もが等しく被るものであり、だからこそ、人間社会全体の盛衰を左右する。  かくして、歴史そのものに大きな影響を与える。しかもそればかりではなく、それぞれの都市と地域の栄枯盛衰を決定付け、最終的に「地図」をも変えてしまう力を持っている─。  この半蔵の見立ては、百年以上の時を隔てて、今日もそのまま、当てはまる。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『強靭化の思想』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)、『令和日本・再生計画 前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)など多数。
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