鉄道が導く「都市と国土のイノベーション」4

新幹線は都市を成長させる「大河」である

 平成22年時点における政令指定都市と、その時点での整備済みの新幹線路線をみてみる。  すると、本州以南の政令指定都市は、一つの例外もなくすべて、新幹線沿線都市圏に張り付いている(唯一の例外は札幌市だが、札幌市は道州制の「道都」という特殊事情がある)。  このことはつまり、新幹線の沿線地域にしか「政令指定都市」までの成長に成功した都市は存在していない、ということだ。  逆に言うなら、新幹線が整備されていない都市は、いずれも「政令指定都市」にまで成長することに失敗しているのである。  すなわち(少なくとも本州以南では)、新幹線は都市が大都市に成長するための「必要条件」だったのである。もちろん、「大きな都市に都市間鉄道を整備したから、結果的にそうなったのだ」という指摘もあるだろう。  しかし、そういう因果関係が一面においてあり得るとしても、それだけで新幹線と都市規模との間の関係を説明することは不可能だ。  そもそも、日本の大都市は、「太平洋ベルト」だけにあったのではなく、日本海側にも多数存在していた。例えば、富山、金沢はいずれもかつては大都市だった。  金沢市は、明治8年時点では、神戸や横浜よりも大きい日本第5位の人口を誇っていた。富山市も、当時の人口規模は12位だった。  あるいは、四国の徳島市も、紀伊半島の和歌山市も、当時の人口規模は第10位、位に位置付けられるほどの大都市だった。しかし、これらの都市は今、政令指定市には程遠いサイズにまで凋落してしまったのだ。  さらに言うなら、現在政令指定都市にまで格上げされた新潟市、福岡市、北九州市、静岡市、浜松市、岡山市などはいずれも、明治期にはベスト15位から「圏外」の、必ずしも大都市とは言えない街だった。  ところが今や、これらはいずれも堂々とした政令指定都市に位置付けられている。  これらのことは、かつての日本は、各地に大都市が散らばる形で、バランスよく日本の国土が繁栄していた一方、今や、新幹線沿線外の都市は軒並み衰退し、新幹線沿線にだけ大都市が集中する、随分と偏った歪いびつな国土構造になってしまった、ということを意味している。

新幹線ネットワークは「国土イノベーション」

 つまり、新幹線ネットワークは、都市のみならず「国土」そのものを質的に変革させる「国土イノベーション」をもたらすほどに、恐ろしいディープインパクトを持つものなのである。  しかし、よくよく考えれば、これは何も驚くにあたらぬ、極めて常識的な話だ。そもそも本章冒頭で述べたように、「都市は生き物」なのだ。  だとすると、新幹線は、都市という生き物が生きていくために必要なエネルギーを運んでくる「大河」だ。だから、その川辺の生き物はどんどん成長していく。  これこそ、太平洋ベルトの大都市群たちだ。ところが、その大河からはずれ、中小の河川しかない地域にはエネルギーが不足し、大きな生物も徐々にやせ細っていく。  それこそが、日本海沿岸地域や四国、九州、北海道の各都市の姿なのである。もちろん、新幹線だけが、都市の発展を規定する唯一無二の存在ではない。  繰り返しとなるが、道路も港も重要な存在だ。しかし、上述の国土の変遷についての客観的事実を踏まえれば、都市の成長に対する巨大過ぎるほどのインパクトは否定しがたいのである。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『強靭化の思想』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)、『令和日本・再生計画 前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)など多数。
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