鉄道が導く「都市と国土のイノベーション」5

総理演説「地方創生回廊」論の背後にあるもの

 こう考えれば、東京一極集中も、関西の地盤沈下も、日本海側諸地域や四国や九州、北海道等の地方の衰退の問題を改善していこうとするなら、新幹線による「国土イノベーション力」を外して考えることは著しく不条理な態度である、という真実が浮かび上がる。  東京一極集中を解消すると同時に、関西を含めた全国の各地方を、本当に「地方創生」したいなら、全国各地に新幹線ネットワークを整備していけば良い、という次第だ。それは至ってシンプルな話と言えるだろう。  そして実際、少なくとも「かつて」は日本国政府は、そういう意図を明確に持っていた。これは、現在、政府が構想している「全国の新幹線ネットワーク」である。  これは、昭和40年代時点で、すでに存在していたネットワークと、当時政府が閣議決定した「基本計画路線」というものだ。  計画では、北海道から鹿児島に至るまで、日本海側も太平洋側も、東北も四国も山陰も、すべての地域をまんべんなく網羅する新幹線ネットワークが、政府によって正式に計画されている。  この全体像を見れば、東京には「5本」(東海道、中央、北陸、上越、東北)の路線が計画されたのと同時に、大阪にも「5本」(東海道・山陽、四国、山陰、北陸、中央)の路線が計画されていることが分かる。そして、日本海側と太平洋側の整備密度についても、著しい差異は見られない。  つまり、少なくとも計画の段階で言うなら、東京や太平洋側だけが優遇されているわけでもなく、東と西も、日本海側と太平洋側もバランス良く、新幹線がつくられることが構想されていたことが分かる。  ただし、白い線、つまり「整備済み」の路線に着目すると、三大都市圏の中で東京「だけ」が著しく厚遇されていることが分かる。

整備率では四倍もの格差

 東京は今や、5本中4本が整備されている。そして残る1本(中央)も、すでに着工済みとなっている。  一方で、西の中心都市、大阪について言うなら、計画されていた5本のうち、整備済みは1本だけ(東海道・山陽)。残りの4本(山陰、北陸、四国、中央)はいまだに着工していない。  つまり、東京と大阪の間には、新幹線の整備率について言うなら、四倍もの格差が開いているわけだ。道路にも空港にも港湾にも、東京と大阪の間に格差は存在するものの、新幹線ほど巨大な格差は存在しない。  同様に、日本海側と太平洋側を比較すれば、日本海側の山陰、北陸、羽越の各区路線において整備されているのはごく一部に限られている一方、その「反対側」の東北、東海道、山陽には新幹線は整備済みだ。  つまり、計画の段階では、地域間の「格差」は存在していないものの、実際に整備されたか否かを見れば、地域間には巨大な格差が厳然として存在しているのである。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『強靭化の思想』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)、『令和日本・再生計画 前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)など多数。
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