鉄道が導く「都市と国土のイノベーション」7
都市交通のための「政治的意志」
都市鉄道の整備は、鉄道会社をはじめとした民間が、政府の補助の下で行われるのが一般的だ。そして、その路線は、政府の審議会で審議される。 過去の審議会では、平成12年に、主として首都圏では24路線、京阪神圏では13路線が答申されているが、首都圏では24路線のうち、20路線が開業または事業着手済みだ。 一方で、京阪神圏の13 路線のうちで着工済みはわずか1路線に限られている。首都圏では大半の答申路線の整備が進められている一方で、京阪神圏ではほとんど凍結されたような状況にあるわけだ。 これは要するに、首都圏の方が経済規模が大きく、各路線の採算が取れる一方、京阪神ではそうではないからだ。 つまり、鉄道整備において、「ビジネスとしての採算性」のみが重視され、「都市発展のための必要性」は徹底的に「軽視」されているのである。 ではなぜ、これほどまでにビジネスの論理が重視され、「都市の発展」という政治的行政的視点が軽視されているのかといえば、鉄道に関する国費が徹底的に圧縮されているからに他ならない。 関西のために鉄道整備を進めようと国の一部セクションがどれだけ思っても、オカネがないから、それを進められず、結局、ビジネスで儲かる路線だけが進められる─という顛末となっているわけだ。首都圏一極集中と、地方の衰退
その結果どうなるかといえば、言うまでもなく、さらなる首都圏一極集中と、地方の衰退だ。 つまり、鉄道予算が大きく縮減されることの煽りを受け、新幹線整備も、都市の発展のための都市鉄道の整備もただ単に「ビジネスの論理」で進められることになる。 その結果、東京一極集中が進み地方が衰退し、儲かる鉄道は首都圏だけ、ということになり、「ビジネスの論理」に基づく鉄道整備は、結局首都圏だけで進められていく─という「悪夢のスパイラル」が進行することになる。 このままでは、地方の発展や東京一極集中が緩和することなどあり得ず、ただただ無為無策のまま、状況が悪化していく他ないだろう。そうである以上、もうお分かりいただけたのではないだろうか。 今、わが国において何よりも求められているのは、都市と国土に巨大なイノベーションをもたらす鉄道整備が「進められない」という、緊縮的構造そのものに対する「深い部分での変革」たるイノベーションに他ならないのである。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『強靭化の思想』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)、『令和日本・再生計画 前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)など多数。ハッシュタグ
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