中国が主張する南シナ海の領土問題ついに決着!? ベトナムの領有権を証明する決定的証拠見つかる!

<文/川島博之・ベトナム・ビングループ主席経済顧問>

南シナ海の領有権をめぐる問題

 歴史上、国家の権限がおよぶ領土や領海をめぐる問題は後を絶たず、戦争を引き起こす主な理由の一つになっている。現在も世界各地で領土・領海をめぐる問題が起こっている。  近年では、南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島やパラセル(西沙)諸島の領有権をめぐり、ASEAN諸国と中国の間などで主張が対立している。例えばスプラトリー諸島のジョンソン南礁はベトナムが統治していたが、1988年のスプラトリー諸島海戦で中国が実効支配している。中国は2013年頃から埋め立てて「人工島」を造成しており、領有権を主張するベトナムやフィリピン、マレーシアなどとの間で問題になっている。

古地図が語る南シナ海の領有権

 古地図は我々にいろいろなことを教えてくれる。図1はオランダ人のヨドクス・ホンディウス(Jodocus Hondius・1563〜1612年)が描いたインドと東南アジアの地図である。

図1 1613 年にアムステルダムで出版された地図。南シナ海の島々がナイフのような形で囲まれて(図中囲み部分)ベトナム南部に帰属するように描かれている。

 この地図は17世紀初頭(江戸時代の初期)に、ヨーロッパ人が東南アジアをどのように理解していたかを示している。  地図は現在の目から見れば不十分ではあるものの、概ね東南アジアの概要を伝えている。シャム、カンボジア、ルソン、ボルネオ、スマトラなどの表記も見られ、これらの名称が当時から使われていたことが分かる。  興味深いのは南シナ海の島々がナイフのような図形で囲まれて、その帰属が現在のベトナムとされていることだ。当時の船乗りにとって、南シナ海の島々はマラッカ海峡を通過して日本や中国に至る上で重要な道標だった。  西洋から航海してきた人々は、その島々がどこに帰属しているのか聞いたに違いない。そして、その答えはベトナムであったようだ。だから、このように南シナ海の島々を囲んで、その帰属をベトナムとしたのだと思う。  この事実は南シナ海に面する国々の中で、ベトナムが早くから国家を形成していたことと無縁ではないだろう。フィリピンやマレーシアが国家としての体裁を整えるのは、第二次世界大戦が終わってから後のことである。

南シナ海の島々にベトナムの名前

 この南シナ海の島々の帰属は1896年に作られた地図(図2)を見るとより明確になる。図2は現在我々が目にする地図と遜色がない。

図2 1896 年にタイムズ・アトラスの一部としてロンドンで出版された地図。中国が近年、領有権を主張するようになった「西沙諸島」は、「Paracel Islands and Reefs」(パラセル諸島)と表記されているなど、南シナ海の島々の名前としてベトナム人が用いていた名称が記載されている。

 19世紀後半になると、人類は世界の地形について正確な知識を有するに至ったのだが、この地図では南シナ海の島々にベトナムの名前が付けられている。  19世紀になるとベトナムではグエン朝が全国を統一しており、国土に対する意識も高まったことから、西欧人に南シナ海の島々はベトナムに所属することを伝えていたようだ。それがこの地図に反映されている。  現在、中国は南シナ海の島々である南沙諸島、西沙諸島などに対して、その領有権を主張している。だが、明王朝の時代(図1)、清王朝の時代(図2)に、中立的な立場にあった西洋人が描いた地図には、それらの島々はベトナムに帰属すると記されている。

明も清も鎖国制度(海禁)を採用していた

 東南アジアにヒンズー文明やイスラム教が伝播した経緯を記したところでも述べたが、中国人は海外進出に興味を持っていなかった。興味を持たないどころか、明も清も鎖国制度(海禁)を採用しており、自国民が外洋に航海することを禁じていた。そんな関係もあり、16世紀になって西欧人がアジアに来た時に、南シナ海の島々はベトナムのものとされていた。  このような事実を見ても、中国が南シナ海の島々の領有権を主張することには根拠がない。歴史を知る時、中国が南シナ海の島々の領有権を軍事力の行使を伴いながら主張することは容認できるものではない。その行為はまさに帝国主義的と言ってよいだろう。  今回述べた内容については、3月1日に出版される『日本人が誤解している東南アジア近現代史』(扶桑社新書)にも詳しく書いているので、ご興味のある方は参照いただきたい。 川島博之(かわしまひろゆき) ベトナム・ビングループ主席経済顧問、Martial Research & Management Co. Ltd., Chief Economic Advisor。1953年生まれ。1983年東京大学大学院工学系研究科博士課程単位取得退学。東京大学生産技術研究所助手、農林水産省農業環境技術研究所主任研究官、東京大学大学院農学生命科学研究科准教授を経て現職。工学博士。専門は開発経済学。著書にベストセラー『戸籍アパルトヘイト国家・中国の崩壊』や『習近平のデジタル文化革命』(いずれも講談社+α新書)等多数。最新刊は『日本人が誤解している東南アジア近現代史』(扶桑社新書)。
日本人が誤解している東南アジア近現代史

「日本が侵略した」 「日本が解放した」 どちらも間違い!! 日本人だからこそ知っておくべき東南アジアの歴史の真実!

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