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米中貿易戦争で世界が注目する東南アジアについて 日本人だからこそ知っておくべきこと
2020年02月19日
米中貿易戦争で世界が注目する東南アジアについて 日本人だからこそ知っておくべきこと
川島博之
<文/川島博之・ベトナム・ビングループ主席経済顧問>
米中貿易摩擦の受け皿として注目される東南アジア
東南アジアとは、インドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、ラオスのASEAN(東南アジア諸国連合)加盟10カ国と、東ティモールで構成される地域を指す。
東南アジア(外務省ウェブサイトより)
この地域は約6億5000万人もの人口を抱え、程度の差こそあれ、どの国も経済が著しい勢いで発展している。また、どの国の政情も20世紀に比べれば大変に安定している。もはや、ベトナム戦争のようなことが繰り返されることはないだろう。
ベトナムの首都ハノイの街並み
中国の経済成長が曲がり角を迎えた今日、次の成長セクターは東南アジアになると見て間違いない。少子高齢化に悩む日本にとって、いまだに人口構成が若い東南アジアは魅力的なパートナーになる。 国際協力銀行(JBIC)が海外事業の実績がある国内製造業1004社を対象に行った2019年度の海外直接投資アンケート(2019年6〜8月実施。回答企業588社、有効回答率58・6%)では、米中貿易摩擦による関税合戦の影響を避けるために「世界の工場」として君臨してきた中国向けの投資を手控える動きが本格化していることが明らかになった。 今後3年程度の有望事業展開先(複数回答)の得票率を見てみよう。 1位 インド 47・8% 2位 中国 44・6% 3位 ベトナム 36・4% 4位 タイ 32・9% 5位 インドネシア 25・2% 6位 アメリカ 23・0% 7位 フィリピン 11・9% 8位 メキシコ 11・6% 9位 ミャンマー、マレーシア 10・1% 1位のインドが前年比1・6ポイント上昇の47・8%。前年5割以上だった中国は7・6ポイント減の44・6%と大幅に後退した。3位のベトナムや7位のフィリピン、9位のマレーシアがそれぞれ前年より一つずつ順位を上げており、「米中貿易摩擦の受け皿」として東南アジアが見直されている。 筆者は現在ベトナムに住んでいるが、ベトナムは急速に発展しており、ベトナムから日本に若者が働きに来る時代は、もう10年もすれば終わることになろう。 21世紀はこれから多くの日本人が東南アジアに行って働く時代になると思う。現に韓国人はベトナムに大量に来ている。日本人の持つノウハウは若いアジアの国々で役に立つ。 日本人はともすればグローバル化というとアメリカやヨーロッパをイメージするが、東南アジアは日本人が最も活躍しやすい「海外」である。それは同じ東アジアの国である中国や韓国にとっても同じで、彼らはものすごい勢いで、東南アジアに進出し始めている。 日本にとって東南アジアは中国、韓国などの次に近い地域である。ただ、その割には東南アジアについての情報は少ない。街の本屋を覗いても、いわゆる中国や韓国に関する本を目にすることはあっても、東南アジアについて書かれた本に出合うことはまずない。あってもその多くは観光ガイドの類である。多くの日本人にとって、東南アジアとはバリ島、プーケット、セブ島、ダナンなどといったリゾート名と共に語る地域なのだろう。
東南アジアは日本の最良のパートナーになる
そんな東南アジアが21世紀に入って大きく変わり始めた。東西冷戦の後遺症を引きずっていた時代が終わり、政治的に安定したことから、猛烈な勢いで成長し始めた。もはや東南アジアを経済発展の遅れた地域と見なすことはできない。 すでにシンガポールは先進国であり、マレーシア、タイも先進国入りを控えている。シンガポールの一人当たりGDPは日本より高い。日本にとって東南アジアは観光地であるとともに、ビジネスの対象として重要な地域になった。「中進国の罠」なる言葉も聞かれて、それなりの問題を抱えてはいるものの、10年もすればマレーシアやタイも先進国入りするだろう。また、インドネシアやベトナムも現在のマレーシアやタイに近い水準にまで達すると思う。 そんな東南アジアは、低成長に悩む日本にとって最良のパートナーになる。東南アジアとの良好な関係を築き上げることは、少子高齢化に悩む日本にとって極めて有力な国家戦略である。 東南アジアは日本企業にとってチャンスが広がる地域になっている。また、個人にとってもチャンスは広がっている。それは東南アジアの発展の過程が日本の戦後の姿によく似ているからだ。日本で働いて得た知識は意外と役に立つ。そんなわけで若い人だけでなく、筆者がそうであるように、定年後に東南アジアの会社で働くことも可能である。 私はアジアの農業について研究してきた。過去30年間にわたりアジアの農村部を訪ねて歩いてきた。初期は農業と環境の関係を研究していたが、農業や環境問題を考える上で経済が果たす役割が極めて大きいことに気づいたために、後半は農業から見たアジア経済の研究に力点を移した。学問分野で言えば開発経済学になる。 私はコメを作っているアジアを歩いてきた。コメは日本や朝鮮半島、中国、東南アジア、バングラデシュ、インドなどで栽培されている。もちろんそれ以外の地域でも作られているが、インドの西に位置するパキスタンではコメの地位は大きく低下する。パキスタンの主要な穀物は小麦である。コメを作るアジアで私が訪問したことのない国は北朝鮮だけと言ってもよい。 私のこの経験はかなり特殊なものだと思う。ビジネスパーソンや経済学者は北京や上海、バンコクやジャカルタを訪問することは多いが、農村部を訪ね歩くことは稀であろう。また、地域研究をしている学者はある地域に留まって研究することが多く、広くアジアの農村を見て回ることはない。
国によって異なる〝あの戦争〟の捉え方
アジアの農村部を調査していると、都市を見ているだけでは知ることができない、その国の〝地〞とも言える感情に出合うことがある。そんな経験を重ねるにつれて、東南アジアの人々と付き合う際にも、〝あの戦争〞のことを知っておく必要があると考えるようになった。 言うまでもなく、中国や韓国との間には歴史認識に関する問題が存在する。中国や韓国の人々と付き合う場合に、歴史認識が異なることを知っておくことは必須であろう。ビジネスの際には、歴史問題に深入りすることを避ける工夫が必要になる。 東南アジアでは中国や韓国のように歴史認識が表面に出ることはまずない。ただし、〝地〞の部分では〝あの戦争〞は意外に大きな意味を持っている。インドネシアとタイは比較的親日的だが、シンガポール、フィリピン、ミャンマー、ベトナム、マレーシアの東南アジア五カ国との間に歴史認識問題があることは、ほとんど知られていない。日本人が忘れてしまった歴史を東南アジアの人々は心のどこかに引きずっている。それを無視しては、東南アジアの人々と深い付き合いはできない。 現在、多くの日本人は〝あの戦争〞と東南アジアとの関係について、全くと言ってよいほど知識を持ち合わせていない。それは小学校から大学まで、学校では東南アジアについてほとんど何も教えてくれないからだ。その一方で、私たちがすっかり忘れてしまった〝あの戦争〞を東南アジアの人々は意外によく覚えている。その理由は自分の住んでいる町や村が戦場になったからだけではない。〝あの戦争〞が東南アジア諸国の独立と深く関わっているためである。 だから、東南アジアにおける〝あの戦争〞の記憶は、朝日・岩波論壇で語られる「日本がアジアの人々に多大な犠牲を強いた」という、いわゆる自虐史観を裏づけるものにはなっていない。しかし、そうかといって産経新聞に代表される保守論壇の「日本はアジア諸国の独立を助けた」というものにもなっていない。その双方が入り混じって存在しており、国や民族によってもその混ざり具合は異なる。 このような状況にあるために、東南アジアの人々とお付き合いする際には、〝あの戦争〞と東南アジアとの関係について、学校で習わなかった部分を補っておく必要がある。 筆者はこの度、
『日本人が誤解している東南アジア近現代史』
(扶桑社新書)という本を上梓することになったのだが、この本はそんな東南アジアについて、〝日本人として〞知っておきたい知識を書き連ねたものである。 本書では〝日本人〞が重要なキーワードになっている。そんなわけで、必ずしも客観的に東南アジアを紹介する本ではない。もちろん、独りよがりになってはいけないから、努めて客観的に書いたつもりだが、それでも研究者が書く東南アジアの本とは少々毛色が異なっている。 本書は日本人が東南アジアに行ってビジネスを行おうとする場合に、日本人として知っておくべきことを書いたつもりである。よく見かける東南アジア紹介書とは異なり、筆者の体験を基にして、東南アジアの人々と心の奥底で触れ合うには何が重要か書いてみた。本書が東南アジアで活躍したいと思っている人にとって、少しでも役に立つことがあれば、それは筆者にとって望外の幸せになる。
川島博之(かわしまひろゆき)
ベトナム・ビングループ主席経済顧問、Martial Research & Management Co. Ltd., Chief Economic Advisor。1953年生まれ。1983年東京大学大学院工学系研究科博士課程単位取得退学。東京大学生産技術研究所助手、農林水産省農業環境技術研究所主任研究官、東京大学大学院農学生命科学研究科准教授を経て現職。工学博士。専門は開発経済学。著書にベストセラー『戸籍アパルトヘイト国家・中国の崩壊』や『習近平のデジタル文化革命』(いずれも講談社+α新書)等多数。最新刊は
『日本人が誤解している東南アジア近現代史』
(扶桑社新書)。
川島博之
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『
日本人が誤解している東南アジア近現代史
』
「日本が侵略した」 「日本が解放した」 どちらも間違い!! 日本人だからこそ知っておくべき東南アジアの歴史の真実!
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アジアの農村部を調査していると、都市を見ているだけでは知ることができない、その国の〝地〞とも言える感情に出合うことがある。そんな経験を重ねるにつれて、東南アジアの人々と付き合う際にも、〝あの戦争〞のことを知っておく必要があると考えるようになった。 言うまでもなく、中国や韓国との間には歴史認識に関する問題が存在する。中国や韓国の人々と付き合う場合に、歴史認識が異なることを知っておくことは必須であろう。ビジネスの際には、歴史問題に深入りすることを避ける工夫が必要になる。 東南アジアでは中国や韓国のように歴史認識が表面に出ることはまずない。ただし、〝地〞の部分では〝あの戦争〞は意外に大きな意味を持っている。インドネシアとタイは比較的親日的だが、シンガポール、フィリピン、ミャンマー、ベトナム、マレーシアの東南アジア五カ国との間に歴史認識問題があることは、ほとんど知られていない。日本人が忘れてしまった歴史を東南アジアの人々は心のどこかに引きずっている。それを無視しては、東南アジアの人々と深い付き合いはできない。 現在、多くの日本人は〝あの戦争〞と東南アジアとの関係について、全くと言ってよいほど知識を持ち合わせていない。それは小学校から大学まで、学校では東南アジアについてほとんど何も教えてくれないからだ。その一方で、私たちがすっかり忘れてしまった〝あの戦争〞を東南アジアの人々は意外によく覚えている。その理由は自分の住んでいる町や村が戦場になったからだけではない。〝あの戦争〞が東南アジア諸国の独立と深く関わっているためである。 だから、東南アジアにおける〝あの戦争〞の記憶は、朝日・岩波論壇で語られる「日本がアジアの人々に多大な犠牲を強いた」という、いわゆる自虐史観を裏づけるものにはなっていない。しかし、そうかといって産経新聞に代表される保守論壇の「日本はアジア諸国の独立を助けた」というものにもなっていない。その双方が入り混じって存在しており、国や民族によってもその混ざり具合は異なる。 このような状況にあるために、東南アジアの人々とお付き合いする際には、〝あの戦争〞と東南アジアとの関係について、学校で習わなかった部分を補っておく必要がある。 筆者はこの度、『日本人が誤解している東南アジア近現代史』(扶桑社新書)という本を上梓することになったのだが、この本はそんな東南アジアについて、〝日本人として〞知っておきたい知識を書き連ねたものである。 本書では〝日本人〞が重要なキーワードになっている。そんなわけで、必ずしも客観的に東南アジアを紹介する本ではない。もちろん、独りよがりになってはいけないから、努めて客観的に書いたつもりだが、それでも研究者が書く東南アジアの本とは少々毛色が異なっている。 本書は日本人が東南アジアに行ってビジネスを行おうとする場合に、日本人として知っておくべきことを書いたつもりである。よく見かける東南アジア紹介書とは異なり、筆者の体験を基にして、東南アジアの人々と心の奥底で触れ合うには何が重要か書いてみた。本書が東南アジアで活躍したいと思っている人にとって、少しでも役に立つことがあれば、それは筆者にとって望外の幸せになる。 川島博之(かわしまひろゆき) ベトナム・ビングループ主席経済顧問、Martial Research & Management Co. Ltd., Chief Economic Advisor。1953年生まれ。1983年東京大学大学院工学系研究科博士課程単位取得退学。東京大学生産技術研究所助手、農林水産省農業環境技術研究所主任研究官、東京大学大学院農学生命科学研究科准教授を経て現職。工学博士。専門は開発経済学。著書にベストセラー『戸籍アパルトヘイト国家・中国の崩壊』や『習近平のデジタル文化革命』(いずれも講談社+α新書)等多数。最新刊は『日本人が誤解している東南アジア近現代史』(扶桑社新書)。「日本が侵略した」 「日本が解放した」 どちらも間違い!! 日本人だからこそ知っておくべき東南アジアの歴史の真実!