都市の強靭化: 六本木ヒルズのエネルギー・イノベーション4

六本木ヒルズエネルギーセンター

 前述したように、六本木ヒルズで採用されているシステムは「コージェネレーション」システム(CGS)と呼ばれるものである。  このシステムでは、通常なら捨てられている「排熱」を利用しているがゆえに、「エネルギー効率性」が高い。  結果、通常のシステムよりも資源消費量を16%も圧縮できると同時に、二酸化炭素排出量は18%、NOx排出量については実に42%も削減できる。  これはつまり、当該センターが「省エネルギー」ならびに「地球温暖化対策」「環境汚染対策」に貢献していることを意味している。  これに加えて、システムの稼働にあたっては極めて高い耐震性を持つ「中圧ガス管」によって供給される「ガス」を用いている、という点が、このエネルギーセンターの第二の特徴だ。  大地震時には、「電線」だと電柱が倒れる等により、仮に発電所が無傷であったとしても電力供給が途絶えてしまう危険性が高い。水道もガスも、多くの場合その配管が損傷し、供給ができなくなってしまう。  ところが、(一般家庭へのガス供給で使われている低圧ガス管とは異なる)「中圧ガス管」のシステムは極めて優れた耐震性を持っている。  例えば、東日本大震災の折りにはあらゆるライフラインが破損したのだが、そんな中、中圧ガス管に関しては全く損傷が見られなかった。  これは、中圧ガス管それ自体が強靭な素材で作られているからである。  かくして政府は、東日本大震災以降、エネルギー強靭化の観点から耐震性の高い中圧・高圧ガス管等を活用したガス供給システムの拡充を果たす方針を国土強靭化の基本計画に盛り込んでいる。  そして六本木ヒルズはこの中圧ガス管によるガスで電力と熱を作り出しているのである。  したがって、巨大地震で都市全体の大半のエネルギー供給が途絶しても、六本木ヒルズだけはエネルギーを調達し続けることが可能となるのである。  これこそ六本木ヒルズに高いエネルギー強靭性が確保されている最大の理由だ。  しかも、上述のように、平時に利用する5台の発電機に加えて、予備の発電機も設置されており、発電機それ自体の一部に被害が及んだケースでも対応可能となっており、その強靭性は二重に強化されている。 「絶対安全」という言葉はいかなるシステムに対しても用いることなどできないが、この六本木ヒルズのシステムは、現実的な範囲の中でそれにかなり近い水準に達していると期待されているのである。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『強靭化の思想』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)、『令和日本・再生計画 前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)など多数。
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