敗戦から75年、戦後はまだ終わっていない!  名著、待望の復刊!

激動の昭和前史の記憶

 桶谷秀昭氏の『昭和精神史』は昭和六十三(一九八八)年、昭和の最後の年に書き始められ、平成四(一九九二)年六月に文藝春秋から出版、平成八(一九九六)年四月には文庫化され、多くの読者に読み継がれてきました。その後、長らく絶版となっていましたが、令和の時代に入り、戦後七十五年を迎えた本年、激動の昭和前史の記憶を風化させないために、この度、装いも新たに復刊することになりました。

桶谷秀昭著『昭和精神史』(扶桑社)

 第四十六回毎日出版文化賞を受賞した本書は、大正天皇の崩御によって始まった昭和という時代を検証し、大東亜戦争敗戦に至る「時代精神」を描いた大作です。『昭和精神史』と銘打たれていますが、 「第一章 昭和改元」から始まり「、第二十章 春城草木深し」の敗戦によるGHQ(連合国軍総司令部) の占領初期の昭和二十一年まで、つまり昭和の三分の一しか描かれていません。  その理由について桶谷氏は、「『昭和の精神』といふものがあるとすれば、それは昭和二十年の敗戦までの精神過程なのであり、占領期を含む戦後はそれとは異質の時間である」(「文庫版のためのあとがき」)と述べています。  日本の戦後は、敗戦の虚脱から深い吟味もなく過去を否定しようと努めてきた。しかし、大東亜戦争は本当に一部指導者の狂気の産物と片づけられるのだろうか――。桶谷氏はこの昭和前史を、既成の史観から断罪するのではなく、変革と戦争を必死で生き抜く日本人の喜び、悲しみ、苦悶に丹念に寄り添いながら、再検証を試みました。 「私は、昭和改元の年から敗戦期までの日本人の心の歴史を 描かうとしてゐる。それを文学史でもなく、思想史でもなく、あるいはまた思潮史でもなく、精神史と呼ぶのは、この時代に生きた日本人の心の姿を、できるだけ具体的に描きたいからである。」と桶谷氏は語っています。

「歴史は繰り返す」

「歴史は繰り返す」とよく言われますが、時代は違えど令和に生きる私たちにとっても、激動の時代だった昭和時代の日本人の心の軌跡を辿ることにより、私たちの先人が何を考え、何を思ったかを感取することができるのではないでしょうか。  例えば、「第一章 昭和改元」では、その背景に大正時代の第一次世界大戦後の好景気とその後の 恐慌、そして大正十二年の関東大震災後という雰囲気があったことがうかがえます。また、マルクス・ レーニン主義が少しずつ国内に広まり、影響を及ぼしつつあることについても触れています。私たちはここに、令和の改元の八年前に東日本大震災があり、さらにその前には平成のバブル崩壊と「失われた二十年」の不景気があったこと、またさまざまな分野へのグローバリズムの浸透を重ね合わせて読むことができるでしょう。  なお、巻末には長谷川三千子氏(埼玉大学名誉教授)による解説を掲載しました。長谷川氏は『神やぶれたまはず― 昭和二十年八月十五日正午』(中央公論新社、平成二十五年)の中で、この『昭和精神史』について一章を割いて論じていますが、「あとがき」で『神やぶれたまはず』は本来「『昭和 精神史』考」として書かれるはずのものであったと述べています。  その『昭和精神史』に導かれるままにできあがった『神やぶれたまはず』の文庫版では、桶谷氏が 解説の文章を寄せており、今回の長谷川氏の解説は、いわばその桶谷氏の解説への返歌とも言えるものです。ぜひお読みください。 [桶谷秀昭著『昭和精神史』(扶桑社)序文より] 桶谷秀昭(おけたに・ひであき) 文藝評論家。昭和7(1932)年、東京生まれ。30年、一橋大学社会学部卒。村上一郎と「無名鬼」により評論活動を 始める。53年に『ドストエフスキイ』で平林たい子文学賞、58年に『保田與重郎』で藝術選奨文部大臣賞、平成5年に は本書で毎日出版文化賞、7年に『伊藤整』で伊藤整文学 賞を受賞。他の主要な著作に『天心 鑑三 荷風』『北村透谷』『中野重治』『二葉亭四迷と明治日本』、また本書の続編として『昭和精神史 戦後篇』がある。
昭和精神史

敗戦から75年、戦後はまだ終わっていない! 昭和改元、マルクス主義と国体論の台頭、二・二六事件、日華事変、日米開戦、そして敗戦―― 激動の昭和前史の記憶を風化させないために 毎日出版文化賞受賞の名著、待望の復刊!

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