食産業インフラ・イノベーションが日本を救う1 

「食料自給率」の向上は「国家安全保障」のために必須

 あらゆるインフラは、私たちの社会、経済、暮らしを支える極めて枢要な役割を担うが、「食」に関するインフラ、つまり「食産業インフラ」は、それらの中でもとりわけ重要だ。  日本経済がどれだけ疲弊しようが、エネルギーの輸入が途切れようが、食料さえ自給できていれば、とりあえず生きて行くことができる一方で、どれだけ経済が強くても、食料が途絶えれば国民は生きて行くことすらできなくなってしまうからだ。  かくして、「食料安全保障」、そしてそのための「食料自給率」の向上は、わが国における枢要な国家政策に位置付けられるべきものなのである。  無論この現代社会で、餓死者が出るような事態となれば国際社会が人道支援を図る可能性は十分にあり得ることだし、経済力(つまりカネ)さえあるなら、よほどのことがない限り最低限の食料調達は可能であろう。  しかし将来、世界的な干ばつや大火山噴火などで世界的に深刻な食料不足が生じないとも限らず、食料供給国と外交的、軍事的な緊張が高まる可能性がないとも限らない。  そんな時に食料自給率が低ければ、最低限の食料を確保するために、膨大な国家資産を支払わなければならなくなる。  仮に「カネ」だけで解決できるのだとしても、その時に必要な「カネ」は莫大な水準となる。しかも食料は常時求められるものなのだから、そんな支出増は一過性でなく、半永久的に求められる。  仮にカネの支出が不要であっても、「食料を調達し続けなければならない」という事態が、外交上の大きな弱みとなる。  つまり、食料自給率が低ければ、⑴国民の健康と生命が守れなくなるリスクを負うばかりでなく、⑵持続的な海外への支出拡大とそれを通した日本のデフレ不況拡大の巨大リスクを負うことになると同時に、⑶海外の食料供給国に将来日本を脅すのに使えるかもしれない巨大な「外交カード」をタダで配り歩いていることになるのである。  こうした理由から、食料自給率問題はあらゆる国家において、安全保障の根幹を成す問題と位置付けられているのである。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『強靭化の思想』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)、『令和日本・再生計画 前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)など多数。
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