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チュチェ思想が示す偽りの人間中心主義
2020年10月30日
チュチェ思想が示す偽りの人間中心主義
篠原常一郎
『北朝鮮を正しく理解するためのチュチェ思想入門』連載第7回 <文/篠原常一郎:元日本共産党国会議員秘書>
「民衆が主人として生きる自主の時代の哲学」
驚くべきことですが、日本でも北朝鮮のチュチュ思想を学習する人たちがいます。1971年から始まった日本のチュチェ思想研究会は、金日成と金正日の思想を勉強し崇め、指導思想とする革命運動であり、日本人による親北朝鮮の組織として育成されてきました。 このチュチェ思想研究会を設立したのは、〝最高指導者〟の尾上健一氏です。尾上氏によれば、チュチェ思想とは「民衆が主人として生きる自主の時代の哲学」であり、「人間を世界の主人におし立て人間と世界の関係を初めて解明」した「自主時代の指導思想」ということです。 尾上氏は、著書『自主・平和の思想』(白峰社、2015年)で、チュチェ思想の原理とその日本での応用について体系的解説を試みていますが、同書の中で、マルクスが唱えた弁証法的唯物論哲学を、「世界はすべて物質によってなりたち、変化発展するという無機物質や動物にもあてはまる概念規定は、もっとも発達した物質である人間にとっては重要な意味をもちません」と片付け、次のように述べています。
尾上健一著『自主・平和の思想―民衆主体の社会主義を史上はじめてきずく朝鮮とその思想を研究し実践に適用するための日本と世界における活動』(白峰社、2015年)
「チュチェ思想は、人間と世界の関係問題を哲学の根本問題として提起し、『人間があらゆるものの主人であり、すべてを決定する』という哲学的原理を史上はじめて解明しました……人間があらゆるものの主人であるということは、世界における人間の地位を明らかにし、人間がすべてを決定するということは、世界における人間の役割を示しています」 「人間は自主性を生命とする社会的存在であるゆえに、もっとも高度に発達した物質として周囲世界にたいして主人としての地位を占め役割を果たすのです」 チュチェ思想の入口にある「人間があらゆるものの主人」というくだりは、一見誰もが納得しそうなロジックです。しかし、最後には「人間は自主性を生命とする社会的存在」とあって、世にも不思議な「世襲独裁制」を合理化するための誘導路となっています。
「社会政治的生命体」を国家として体現した朝鮮民主主義人民共和国
チュチェ思想はマルクスが提唱した理論と似たところはありますが、組織や社会全体こそが「人間の自主を実現するもの(世界に対して主人としてふるまう)」と見立て、そのためには集団の「頭脳」(革命的血統を引き継ぐ首領による領導)、「神経・命令系統」(党・先覚者集団=エリート)、「手足」(労働者・農民=民衆)がそれぞれ役割を発揮し、これらが一体となった「社会政治的生命体」を形成することが必須とされています。 そして「社会政治的生命体」を国家として最も模範的に体現したのが「朝鮮民主主義人民共和国」だと言っています。「社会政治的生命体」を構成する者にとって最も重要なことは、「頭脳」と、そこから「手足」への命令をつなぐための「神経・命令系統」からなるシステムを、何があっても擁護すること。特に「何ものにも代えがたい革命的血統」を守るためなら、ためらうことなく肉体的生命は投げ出さなければならないとされています。これについてチュチェ思想は「人間にとって大事なものは政治的生命であって、それは肉体的生命より重い」と表現しています。 北朝鮮の歴代指導者(金日成、金正日、金正恩)は、「全社会のチュチェ化」「唯一思想体系」の完成を強調しますが、その本質は、冷静な第三者から見れば、現代社会には例のない個人家系(革命的血統)の神格化をベースにした過酷な独裁体制を合理化するカルト思想であることはあまりに明らかです。 チュチェ思想は「人間こそ自然と社会の主人公」「人間中心主義の復興」などと唱えていますが、「人間が主人公になるには、優れた革命的血統=領袖による領導が必要」として、金一族を「神」のごとく持ち上げています。これは、独裁主義に立った偽りの人間中心主義、徹底した不平等思想です。 それゆえに、残忍な処刑が日常化し、日本人拉致のような個人の運命や命など一切気にもかけないような蛮行が金一族を頂点にいただく体制の維持のために展開されてきました。こうしたいわばカルト思想の影響が拡大し、国政の撹乱が生じていることを日本国民は広く認識すべきでしょう。 【篠原常一郎(しのはらじょういちろう)】 元日本共産党国会議員秘書。1960年東京都生まれ。立教大学文学部教育学科卒業。公立小学校の非常勤教員を経て、日本共産党専従に。筆坂秀世参議院議員の公設秘書を務めた他、民主党政権期は同党衆議院議員の政策秘書を務めた。軍事、安全保障問題やチュチェ思想に関する執筆・講演活動を行っている。著書に
『なぜ彼らは北朝鮮の「チュチェ思想」に従うのか』
(岩田温氏との共著、育鵬社)、
『日本共産党 噂の真相』
(育鵬社)など。YouTubeで「古是三春(ふるぜみつはる)チャンネル」開局中。
篠原常一郎
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『
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』
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