食産業インフラ・イノベーションが日本を救う4

「食料自給率」の向上は公益に叶う。だから世界の常識では、農業は「半政府事業」

 このように、食料自給率の向上には、有事・平時を問わず重大な意味を持つことから、多くの国で、その自給率向上に向けて大量の「国費」が投入されてきている。  例えば、米国やスイスは、農業産出額の年間総額に対して、実に6割以上もの水準の農業予算を政府が支出している。英国やフランスにおいても、その割合は4割以上となっている。  つまり、農業という産業は、半分前後が「国費」によって支えられているのであり、要するに農業は半分程度は「政府事業」であり農業従事者は半分程度は「公務員」の立場にあるというのが一般的な先進諸国の常識なのである。  ところが、わが国の農業産出額に対する政府支出は、わずか「27%」しかない。それは英国、フランスの三分の二、スイスや米国の4割程度という貧弱な水準だ。  それだけ貧弱な政府支援しかなければ、食料自給率が低くなるのも当然。同じく、わが国の自給率(カロリーベース)はわずか4割。  これは、これら諸外国の中でもとりわけ自給率の低い(アルプス山中のため農地を作りにくい)スイスと比べても7割程度、英国に比べれば約半分、フランスや米国と比べれば3割程度しかない。  これは極めて深刻な国家的問題だ。ましてやこれから日本は日欧FTAやTPPなどを通して、これら諸国と激しい国際競争を始めようとしている矢先なのだ。  それだけ手厚い政府補助を受けた国々の農家と、貧弱な保護しか受けていないわが国の農家がさらに激しい自由競争をすれば、日本勢が大敗することは火を見るよりも明らかだ。  自由貿易を進めるのだと息巻くのなら、わが国においても欧米並みの政府支出の拡充がなされるべきものであることは論を俟たない。  それができないのなら、合理的な関税水準を維持し続けるべきなのである。わが国の農を巡る財政(そして関税水準)が、理性的な水準に至らんことを、心から祈念したい。

「食料自給率の向上」に向けた総合戦略

 いずれにせよ、食料自給率の向上のためには、少なくとも平均的な諸外国程度の水準でさまざまな農水産業の保護・育成対策を政府が積極的に果たしていくことが何よりも大事なのである。  そのための代表的ソフト対策としては、例えば「『旬』『ご当地』のものを食べる」「米と野菜中心の食事にする」「食べ残しを減らす」などを国民に呼びかけるキャンペーンがあげられる。  こうした取り組みが進められている背後には、食料自給率を上げるためには、別の「戦略」が効果的だと考えられているからである。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『強靭化の思想』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)、『令和日本・再生計画 前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)など多数。
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