地域イノベーションを導く「リアル・どこでもドア」:高速道路のストック効果1

「交通」は、それぞれの土地の「意味」を根底から変える力を持っている

 どれだけ美しい景色があったとしても、それが絶海の孤島であったとすれば、誰も行くことができない。そこは単なる誰も知らない孤島に過ぎない。  しかし、もしもその孤島に「どこでもドア」が設置され、あらゆる都市から瞬時に訪れることができるようになるなら、その島は凄まじい数の観光客を毎日受け入れる超巨大観光地となるだろう。  あるいはどの都市からも遠く離れたところにあるような土地は、それが良質な地盤を持ち、どれだけ広大なものであったとしても、その地価は「二束三文」のものにしかならない。  しかし、同じくその土地に「どこでもドア」が設置されれば、その地価は一気に凄まじく高騰することだろう。  つまり、その土地の意味や価値は、一面においては、(狭いか広いか、美しい景色があるかどうか、地盤がどうか、等の)その土地自体の「質」に依存するものではある。  が、それと同時に、あるいはそれ以上にその土地への「行きやすさ」(専門用語ではしばしば〝アクセシビリティ〟と言われる)に支配され、決定づけられている。  したがって、行きやすさが変われば、その土地の意味や価値が全く違ったものとなるのである。  そして言うまでもなく、それぞれの土地への「行きやすさ」は、その土地に対する道路や鉄道などの「交通インフラ」の有無やその水準に直接依存している。  だから「交通インフラ」こそが、それぞれの土地の意味を根底から組み替える力を持っている。すなわち交通インフラは、土地そのものを改変するイノベーションを導く最強のツールなのである。

「高速道路」は現代版の「リアル・どこでもドア」である

 例えば、首都圏中央連絡自動車道(略称、「圏央道」)の埼玉県・川島町の「川島インターチェンジ」周辺を考えてみたい。 「圏央道」は、東京を中心に放射状に延びる、「東名」「中央」「関越」「東北」「常磐」「東関東」といったすべての高速道路と交差している。  だからこの圏央道にさえ乗れば、東京都心を含む首都圏の各エリアのみならず、文字通り、日本中のあらゆる都市に高速で行くことができる。  つまりそれはいわば、現実社会における「リアル・どこでもドア」のような存在なわけだ。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『強靭化の思想』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)、『令和日本・再生計画 前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)など多数。
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