日本を港湾インフラ・イノベーション:「基幹航路」を守り、日本を守る3

欧米との「基幹航路」が三分の一にまで激減した

 もちろんもしも日本政府がコンテナ船の大型化に合わせてオカネをかけて、神戸や横浜などの港をより深く、大きくしていったのなら、どれだけ船が大型化しようとも、日本に寄港し続けることができただろう。  しかし、船が大型化していくにもかかわらず、オカネがないという理由で港の大型化を進めていかなかったのである。  一方で、中国や韓国は、船の大型化に合わせて、政府が大量のオカネを使って港をどんどん大きく、深くしていった。  その結果、船が大型化していくにつれて、かつて神戸や横浜に大量にやってきていた欧米からの航路が、一つまた一つと、釜山や上海にその目的地を変えていったのである。  しかも、アジアにおける日本の貿易量が相対的に縮小していったという背景の影響もあり、結果的に、この20年弱の間に、欧米と日本の間の基幹航路の三分の二が、日本から釜山や上海等の外国の港へとその目的地を変えていったのである。  その結果、欧米から日本への荷物は、釜山や上海でいったん降ろし、日本に寄港できる程度の小さな船に積み替えてやってくるようになったのである。

「基幹航路」の喪失は、大きな経済被害をもたらす

 以上は、「欧米との間の基幹航路」が縮小してきたメカニズムの解説だが、この傾向が進んでいけば、「貿易コストの大きな上昇」を含めたさまざまな深刻被害がもたらされることになる。  以下、その被害の概要を一つずつ解説することとしよう。  第一に、「直行便」からより煩雑な「積み替え・経由便」となることで、釜山や上海での「積み替えコスト」が余分にかかるようになるという経済被害である。 この分貿易コストが輸出、輸入のそれぞれに付加されることから、その分だけ日本製品の競争力が低下する。それと同等に国内の物価が上昇し、海外にその分の国民所得が流出する。  ただし基幹航路が完全になくなってしまった場合には、より抜本的なコスト上昇が起こってしまう。  そもそも、「航路」を運用しているのは、船会社である。だから、飛行機の輸送料金を航空会社が決定しているように、コンテナ船の輸送料金を決めているのもまた、民間企業の船会社だ。  そして、基幹航路がいまだに「残存」している状況では、船会社が、欧米と日本との間のコンテナ船の輸送料金を決定する際、相対的に低い水準の「日本に直行する基幹航路」の料金を無視することができない(そもそも「基幹航路」の料金は、日本側の意向を濃厚に反映する形で、一定以下に低く抑えられている)。  あまりに高い値段をつければ、誰も、自分の船を使ってくれなくなるからだ。だから、「基幹航路」が存在している状況では、外国の船会社は、釜山経由であろうと上海経由であろうと、べらぼうに高い値段を日本から徴収することはできない。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『強靭化の思想』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)、『令和日本・再生計画 前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)など多数。
おすすめ記事
おすすめ記事