【3・11特集】放射能パニックの悲劇
―[3・11特集]―
東日本大震災のあと、福島第一原子力発電所で最悪の原子力事故が発生した。地震と津波により、施設は電源喪失、原子炉も破損し、放射性物質が大量に放出。予断を許さない状況は長く続き、発電所周辺の住民のみならず、全国の人々が不安な日々を送ることになった。
事故後、メディアには原子力関連のニュースが溢れ、何が正しい情報なのか、何を信じればいいのか、不安が増幅し、パニック状態になった人も多かった。安全のために“やりすぎ”ということはないのだが、なかには家族の絆を壊してしまったり、デマを拡散したり、原発周辺住民を傷つけてしまう者もいた。
◆無責任に「放射線ヤバい!」を拡散する人に対して福島県民は……
事故後、「被曝者は、放射化して放射線を発している」、「被曝の影響で障害児が続々と生まれる」そんな噂がツイッターやブログを通して拡散された。これらは科学的根拠のない完全なデマである。不安な気持ちはわかるが、その情報を見た人を混乱させ、人を傷つけてしまうことになることまで考えられなかった結果だ。福島県いわき市在住のある男性はこうこぼしていた。
「ツイッターやミクシィで、全然知らない人から“なんであなたは逃げないのか? バカなのか?”といったメッセージが送られてくる。正直、僕らは、よその人よりもずっと、多くの情報を調べています。当たり前ですよ、当事者なんだから。その上で、自分の生活へのリスクと放射線被曝のリスクを秤にかけて考えているんです。簡単に“移住しろ”と言う人は、職も人間関係も捨てて、見知らぬ土地で人生をやり直すことの大変さを考えているのかと言いたい」
※「放射能より[放射能論議]のほうが恐ろしい」(6月7日号)より
⇒ https://nikkan-spa.jp/165510
◆「放射能排出」食品をツイッターで拡散! そんなウマい話はない
放射能の恐怖に怯える人は少なくない。子供を抱える親ならば無理からぬことだ。そんな不安を背景に、「放射能排出」を謳う民間療法が跋扈した。その大半は、梅干しや根昆布汁などの食品、さらには発酵させた米のとぎ汁などを摂取することで、体内に入った放射性物質が除去できるという、本当ならば夢のようなもの。大阪大学准教授で科学技術社会論が専門の平川秀幸氏は、こう断言した。
「残念ながら、現時点で“放射能に効き目アリ”と証明されている薬や食品はありません。ただ、こうした民間療法が続々と出てくることは予想できました。その多くが以前から似非科学の観点で批判されていたものばかりですから」
医師や科学者の視点からすると、かえって健康を損なうという本末転倒な事態となっていたのだ。
※「[放射能に効く民間療法]の大爆笑」(7月26日号)より
⇒ https://nikkan-spa.jp/33853
◆放射能が怖くて引越すが、そこは高自然放射線地帯。さらに悲劇が……
東京に住んでいたが、放射能をおそれ、仕事もやめて一家全員でインドまで移住したという大竹さん(仮名)。しかし、その引越し先は、世界有数の高自然放射線地帯であり、年平均3.8ミリシーベルト、最も高い場所では年20ミリシーベルト以上被曝してしまうという。これは、文科省が定めた子供の基準値上限の被曝量だ。さらに、世界最大規模の原発建設も予定されている。引越し先をインドにした理由は「日本から遠い」ということだけ。避難とは何なのか? 正しい判断には十分な情報と冷静さが必要である。
※「[放射能パニック家族]の(狂)生活」(10月8日号)より
⇒ https://nikkan-spa.jp/85664
◆不確かな情報を「政府の発表しないリアルな情報」と信じて拡散
「やっぱり政府の情報って嘘ばっかり。事実を知ってて欲しいからシェアします!!」などと、Facebookで原発関連の情報を繰り返し投稿するのは、Bさん(29歳・メーカー勤務・女)。絶賛婚活中のアラサー女性のBさんは何事にもエネルギッシュな美女だが、どちらかといえばファッションピープルな彼女が社会派の放射能問題にこんなに熱心になるとは、周囲の人間は思っていなかった。何が彼女を目覚めさせたのか? しかも投稿される内容は、政府や調査機関の発表ではなく、個人ブログなど不確かな情報ばかり。合コンで知り合った男性にも放射能情報を送りつけているようなので、ドン引きする男性もいるという。
※「ドヤ顔で放射能情報を送ってくる人に困惑…」(2月5日)より
⇒ https://nikkan-spa.jp/144741
放射能に関する情報は、できるだけ知っておいた方がいいと思う。自分を取り巻く生活や将来のためにも。だが、ネットで得た情報を鵜呑みにするのは、危険な側面があることも忘れてはならない。今後も続く原発議論においては、正しい情報を見極め、くれぐれも冷静に判断してもらいたい。 <構成/日刊SPA!取材班>
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