矛盾だらけの“軽減税率”を考えたヤツはアホなのか?【経済ブロガー・山本博一】
連載22【不安の正体――アベノミクスの是非を問う】
▼軽減税率でも生活は楽にならない
グラフの赤い部分がなんだかわかりますか? 実はこれ今回決まった軽減税率によって軽減される金額です。これを見てあなたはどう思いますか?
図の青い棒グラフは年収階級別(すべての世帯)で見た1か月の食費(酒類、外食は除く)を比較したもので、赤い部分が軽減税率分の金額なのですが、グラフにするとこんなもの。ショボいの一言です。
一番所得の低い世帯では、1か月の負担軽減額はたったの500円。サラリーマンの昼食1食分を減額してやるからありがたいと思え、という話なのでしょうか。一番所得の高い年収941万円以上の世帯では、負担軽減額は1450円。低所得世帯に比べれば3倍もの恩恵ですが、小学生のお小遣い程度であることは否めません。
軽減税率の目的であった「消費税の逆進性の解消」も話にならず、高所得者のほうがより多く負担が減る始末です。そもそもの減額される金額がショボすぎるため、話にならないのですが……。
▼「なぜ財源で揉めるのか?」――意味がわからない
現在与党は、軽減税率の財源の確保で揉めています。
しかし、「軽減税率」という名前が付いているので錯覚しがちですが、税率が引き下げられるわけではありません。食品の税率が「据え置き」になるだけです。税率が据え置かれるだけなのに、なぜ財源が足りないのでしょうか? 謎です。
軽減税率は庶民への負担軽減のために導入されるはずです。それなのに代わりの財源を確保するために、ほかの予算を削ったり、増税すれば庶民の負担は増すばかりです。前回の記事『軽減税率が決着。財務省は大勝利で国民は地獄へ一直線』にも書きましたが、政府は軽減税率導入のために社会保障費を削減して捻出するつもりのようです。とんでもない話です。
産経新聞の12月14日のアンケート調査によると、社会保障費の削減を財源とする案に「不安を感じる」答えた人が83.4%に上ったそうですが、国民はもっと怒っていいでしょう。
8%や10%への消費税増税の目的は、社会保障費に充てる財源だったはずです。しかし、我々国民は増税で生活が苦しくなることを承知で、それでも日本全体のため、社会保障の充実のために消費増税を受け入れたはずなのに、社会保障を削るとは――これは国民に対する裏切り行為です。
要するに「社会保障の財源確保のため」という理由は、庶民の反発が大きい消費税増税を正当化させ、国民を納得させるための方便だったのです。
今回、軽減税率実現のための財源の候補にまっさきに「社会保障費の削減」が取り上げられました。要するに削りやすいところから取る。財務省や増税派の議員にとって、社会保障などどうでもいいのです。ただただ、消費税率を引き上げたいだけ。それだけです。
▼最初から増税するな
それにしても、今回の軽減税率騒動は矛盾だらけ、めちゃくちゃです。
・消費税の逆進性解消を謳いながら、高所得者の減税額のほうが大きい
・減税と銘打ちながら、単なる税率の据え置き
・国民の負担軽減と言いながら、よそで帳尻合わせをするので結局国民負担は増える
・社会保障充実が名目の消費増税のはずが、社会保障費を削る愚
さらに、外食が軽減税率の対象から外れたおかげで、どこまでを外食として認めるのかについて揉めに揉めています。たとえば、おせちは捨てられる容器は税率8%で、高級重箱に入ったものは10%、コンビニ店内で食べる場合は外食として10%、店外で食べる場合は8%などなど、こんな取り決めを全品目に対してやるのでしょうか?
すでに飲食業界からは批判の声が上がっています。とても国民すべてが納得できるような切り分けができるとは思えません。無理やり導入すれば現場は大混乱になるでしょう。
こんな矛盾に満ちた消費増税を2017年4月に強行するとなれば、来年の選挙の大敗は必至。現に12月14日のNHKの世論調査によれば、増税に「賛成」が28%、「反対」が43%、「どちらともいえない」が27%でした。
安倍首相、どうか国民のために英断をお願いいたします。
◆まとめ
・軽減税率は逆進性解消にならないし、負担軽減にもならない
・軽減税率導入のため、社会保障費を削る矛盾
・国民は10%への増税に大反対
・本当に国民の負担軽減を望むならはじめから増税しなければいい
【山本博一】
1980年生まれ。経済ブロガー。ブログ「ひろのひとりごと」を主宰。医療機器メーカーに務める現役サラリーマン。30代子育て世代の視点から日本経済を分析、同世代のために役立つ情報を発信している。近著に『日本経済が頂点に立つこれだけの理由』(彩図社)。動画配信番組「チャンネルくらら」の『ゆる~く学ぼう!日本経済』に出演中。4児のパパ
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