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ユーロ圏では効かなかった「マイナス金利」が日本では効く、その理由とは?【経済ブロガー・山本博一】

連載26【不安の正体――アベノミクスの是非を問う】マイナス金利導入で株式市場大混乱  またまた日銀のサプライズが炸裂しました。1月29日の金融政策決定会合で追加の金融緩和策として銀行から手数料をとる「マイナス金利」の実施を発表したのです。  日銀の黒田総裁は事前の参議院委員会で、マイナス金利の導入は現時点で考えていないと言っていたのですが、突然のマイナス金利バズーカに市場は大混乱となってしまいました。  しかし、なぜ普通の量的緩和の拡大ではなく、マイナス金利なのでしょうか? このマイナス金利は日本経済にどのような影響を与えるのでしょうか? 正直ピンときません。  すでに民間銀行関係者からは「以前から欧州でマイナス金利は導入されているが目立った効果は出ていない。日本も同様ではないか?」と、効果を疑問視する声も上がっていますが、その心配は無用です。  欧州と日本ではその置かれている状況が異なるので、同じ「マイナス金利」でも、その効果はまったく違ってきます。欧州では不発のマイナス金利も、日本では有効に機能するのです。その理由を説明しましょう。 ▼ユーロ圏のマイナス金利と何が違うのか?  そもそもマイナス金利といっても、「我々の預金金利がマイナスになる」というわけではありません。日銀には銀行の預金口座である「日銀当座預金」があります。この「日銀当座預金」にはこれまで0.1%の金利がついていたのですが、預金の一部にマイナス0.1%の金利、つまり手数料がとられるようになるのです。  日銀はアベノミクス開始以降、銀行などの金融機関から大量の国債を購入していますが、その国債の購入代金は銀行の預金口座である「日銀当座預金」に振り込まれます。しかし、「日銀当座預金」に0.1%の金利がついたままでは、銀行は振り込まれたお金を企業の貸出しにまわすことなく、そのまま放っておくことが考えられます。  ところが、今回のマイナス金利導入により、「日銀当座預金」に利息収入ではなく手数料がかかることになってしまいました。こうなると銀行は利益を確保するために、こぞって企業にお金を貸し出すようになるだろう。これがマイナス金利導入の狙いです。  しかし、ユーロ圏ではこれといってマイナス金利の効果は確認されていません。なぜでしょうか?  その違いは、日本とユーロ圏の量的緩和の「量」にあります。次の図1を見てください。ユーロ圏の中央銀行である欧州中央銀行(ECB)がマイナス金利導入を発表したのは、2014年6月5日。つまり、ECBは本格的な量的緩和を実施して、マネタリーベースが急拡大する前の段階でマイナス金利を導入しているのです。 ユーロ圏のマネタリーベース推移 ECBのマイナス金利導入は、時期尚早でした。日本のように量的緩和を十分にやっていない状態でマイナス金利を導入したのでは効果が出ないのは当たり前です。 「日銀当座預金」に大量のお金が積み上がっている状態でこそ、マイナス金利は威力を発揮します。ECBは政策の順番、優先順位を見誤ったのです。 ▼これで日本経済は安泰というわけではない  しかしながら、欧州のマイナス金利と日本のマイナス金利はぜんぜん違う。だから日本経済は安泰だというわけではありません。  まずこの先、中国経済がどうなるかわかりません。アメリカの利上げによって新興国や資源国の経済が大ダメージを受けてしまう可能性も大きい。これが日本の経済にどのような悪影響を与えるのか、日本は、世界経済はまだまだ予断を許さない状態です。  この不測の事態に備えるためにも、日本政府は早急に2016年度の補正予算を組み、金融緩和を拡大して、財政金融両面でさらなる景気対策を施さなければなりません。  はっきり言って、消費税増税などやっている場合ではありません。まずは、景気回復、デフレ脱却です。日本政府、安倍政権はECBのよおうに政策の優先順位を違えないようにお願いしたいものです。 ■まとめユーロと日本のマイナス金利の違いは量的緩和の量にあるユーロは量的緩和をやる前にマイナス金利を導入。これでは効果は出ない「日銀当座預金」に十分お金が積み上がっている状態でこそ、マイナス金利の威力が発揮される優先すべきは景気の回復。消費税増税などやっている場合ではない ※今回の記事は下記動画を参考にしています。 【1月29日配信】日銀が初のマイナス金利導入!緊急特番!戦後経済史は嘘ばかり 高橋洋一 上念司【チャンネルくらら】 【山本博一】 1980年生まれ。経済ブロガー。ブログ「ひろのひとりごと」を主宰。医療機器メーカーに務める現役サラリーマン。30代子育て世代の視点から日本経済を分析、同世代のために役立つ情報を発信している。近著に『日本経済が頂点に立つこれだけの理由』(彩図社)。動画配信番組「チャンネルくらら」の『ゆる~く学ぼう!日本経済』に出演中。4児のパパ
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