更新日:2022年06月29日 10:20
スポーツ

ホーガンに取られたキングコング・バンディ――フミ斎藤のプロレス講座別冊 WWEヒストリー第52回

「フミ斎藤のプロレス講座別冊」月~金更新 WWEヒストリー第52回

 キングコング・バンディは、ハルク・ホーガンのおあつらえ向きのライバルとしてWWEのリングにデビューした。“正義の味方”ホーガンを狙って次から次へと出現するヒールはとにかく体がケタ外れに大きくて、悪くて、わかりやすいことが必須条件だった。
キングコング・バンディ

“歴史のif”といってしまえばそれまでのことだが、キングコング・バンディは新日本プロレスの看板外国人選手になるはずのレスラーだった。(写真はWWEオフィシャル・マガジン表紙より)

 身長6フィート3インチ(約190センチ)、体重500ポンド(約226キロ)の超巨体で、頭をツルツルに剃り上げたバンディは、ホーガンが因縁ドラマを演じる相手としてまさにうってつけの人材といってよかった。  1957年、ニュージャージー州アトランティックシティー出身。本名クリストファー・ポリース。1976年、クリス・キャノンのリングネームでデビューしたがいまひとつパッとせず、1982年にダラスのWCCW(ワールドクラス・チャンピオンシップ・レスリング)で“客席から乱入してきたファン”という設定で再デビュー。  悪党マネジャーのゲーリー・ハート、スカンドル・アクバらとの合体で大型ヒールに転向し、キングコング・バンディと改名。エリック・ファミリーとのロングランの闘いでいっきにメインイベンターのポジションにかけ上がった。  ダラスWCCWの大ボス、“鉄の爪”フリッツ・フォン・エリックとの“髪切りマッチ”に敗れて頭をツルツルに剃られ、そのまま“タコ入道”スタイルに変身した。フリッツの引退試合の相手をつとめたことで注目を集め(1982年6月14日=テキサス州ダラス、テキサス・スタジアム)、その後はNWAジョージア、ディープサウスのMSWAをツアー。1985年1月、新日本プロレスの北米ブッカー、ジョー大剛のブッキングで初来日した。  “歴史のif”といってしまえばそれまでのことなのかもしれないが、バンディは新日本プロレスの看板外国人になるはずのレスラーだった。1985年の新日本プロレスは第一次UWF(前田日明グループ)、ジャパン・プロレス(長州力グループ)の2派閥が大量離脱したあとの“冬の時代”。バンディはジョー大剛が発掘した“まだ見ぬ最後の強豪”の第1号として新日本プロレスのリングに上がり、シリーズ序盤戦ではタッグマッチながらアントニオ猪木から当時としてはひじょうにレアなフォール勝ちをスコアした。  このシリーズにはホーガンも同時来日していた。バンディのキャラクターとその潜在的な商品価値に目をつけたホーガンは、バンディをWWEにブッキングした。結果的に、看板外国人候補といわれたバンディと新日本プロレスとの関係はたった1シリーズで切れ、バンディ自身は同年3月、WWEと専属契約を交わした。  “レッスルマニア1”(1985年3月31日=ニューヨーク、マディソン・スクウェア・ガーデン)に出場したバンディは、“前座の名物男”スペシャル・デリバリー・ジョーンズとシングルマッチで対戦し、これをわずか9秒で圧殺。この“9秒”という数字は“レッスルマニア”史上最短の試合時間としてのちのちまで公式記録に残されることとなった。  ちなみにバンディの“9秒”の記録を塗り替えたのは、それから19年後の“レッスルマニア20”(2004年3月14日=マディソン・スクウェア・ガーデン)でジェイミー・ノーブルに“公式タイム8秒”でフォール負けを喫したフナキだった。フナキは確信犯的にこの記録更新を狙っていたという。  しかし、現在のWWEの“公式記録”にはバンディの“9秒”もフナキの“8秒”も抹消され、レッスルマニアにおけるオフィシャルの“最短試合記録”は、“レッスルマニア24”(2008年3月30日=フロリダ州オーランド、シトラス・ボウル)でケインが“11秒”チャボ・ゲレロにフォール勝ちした試合ということになっている。  バンディはWWEに約4年在籍後、1988年に持病の心臓疾患が原因で引退。バンディのキャラクターのままコンピュータのソフトウエア関連会社のセールスマンに転身したが、それから7年後の1995年、38歳で現役復帰。“レッスルマニア11”でアンダーテイカーと対戦した(1995年4月2日=コネティカット州ハートフォード)。  バンディはその後、ニュージャージーでレスリング・スクールを開校。数年まえまでは東海岸エリアのインディー・シーンで気ままに試合をしていた。現在は、80年代のレジェンドとしてファン・コンベンションなどに出演している。ホーガンとの出逢いがバンディというレスラーの運命を変えたのだった。(つづく)
斎藤文彦

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