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ビンス・シニアの“バックランド計画”前編――フミ斎藤のプロレス講座別冊 WWEヒストリー第21回

「フミ斎藤のプロレス講座別冊」月~金更新 WWEヒストリー第21回

 コンセプトは“オール・アメリカン・ボーイ”だった。ビンス・マクマホン・シニアは、ブルーノ・サンマルチノに代わるマディソン・スクウェア・ガーデン定期戦の主役として“スーパースター”ビリー・グラハムと契約を交わした時点で、じつはグラハムのそのまたあとのチャンピオン候補の“本命”もすでに獲得していた。
ボブ・バックランド

コンセプトは“オール・アメリカン・ボーイ”。ビンス・マクマホン・シニアは、典型的な正統派で、金髪で青い目のバックランドをマディソン・スクウェア・ガーデン定期戦の新しい主人公にしようと考えた。(写真は米専門誌「スポーツ・レビュー・レスリング」1978年アニュアル号表紙)

 ボブ・バックランドは1949年、ミネソタ州プリンストン出身。ハイスクール時代からアマチュア・レスリングで活躍し、ノースダコタ州立大在学中の1971年にはNCAA全米選手権(ディビジョンⅡ=190ポンド級)で優勝。1973年、ミネアポリスでエディ・シャーキーのコーチを受け、23歳でプロレスラーとしてデビューした。  ジャンボ鶴田、スタン・ハンセンら“同期生”とテキサス州アマリロ地区(ドリー・ファンク・シニア派)を約1年間サーキット後、ジョージア州アトランタ地区(ジム・バーネット派)に転戦。1975年、アトランタでNWA世界ヘビー級王者ジャック・ブリスコに初挑戦し、このタイトルマッチがキャリア2年のルーキー、バックランドにとっての出世試合となった。  ハンセンがガーデンのリングでサンマルチノの首を骨折させてしまった“運命の日”の3日まえ、バックランドはミズーリ州セントルイスのキール・オーデトリアムでハーリー・レイスを下し、ミズーリ・ステート・ヘビー級王座を獲得した(1976年4月23日)。  歴史に“if”はないけれど、もしもあの日、サンマルチノが首を負傷していなかったとしたら、グラハムもバックランドもチャンピオンにはなっていなかったかもしれない。  バックランドとレイスはその後、ミズーリ・ヘビー級王座をかけてセントルイスで2度対戦し、レイスにとってはリターン・マッチの第1戦はバックランドが反則負けとなったが、タイトルマッチ・ルールで王座防衛に成功(1976年8月27日)。完全決着戦としてラインナップされたランバージャック・マッチでは、バックランドがレイスにフォール勝ちを収め、この因縁ドラマに終止符を打った(1976年9月10日)。NWA世界ヘビー級王座が“横綱”のランクだとすると、このミズーリ王座はそのすぐ下の“大関”にあたるポジションだった。  この年、バックランドはテリー・ファンクが保持していたNWA世界ヘビー級王座にも挑戦し、60分3本勝負でおこなわれたタイトルマッチは、テリーが1本めを先取したまま60分タイムアップで試合終了(1976年10月8日=セントルイス)。バックランドが“次期世界王者最有力候補”と評されるようになったのはこのころからだった。  バックランドはJ・ブリスコに敗れミズーリ王座を明け渡した試合(1976年11月26日)を最後にセントルイス地区でのサーキットを終え、NWAエリアのフロリダ地区(エディ・グラハム派)に転戦した。  ミズーリ州セントルイス(サム・マソニック派)、ジョージア州アトランタ、フロリダの3地区はいずれもNWA(ナショナル・レスリング・アライアンス)の加盟テリトリーで、ひじょうに強いヨコのつながりを持っていた。あまり知られていないエピソードだが、WWEオーナーのビンス・シニアもこの当時、NWA役員メンバーに名を連ねていた。  セントルイスのS・マソニック、フロリダのエディ・グラハムら大物プロモーターたちは、元アマレス全米王者のバックランドを近い将来の世界チャンピオン候補ととらえていたが、テリーからNWA世界王座を奪ったのはどちらかといえば“古株”のレイスだった(1977年2月6日=カナダ・トロント)。  バックランドが初めてニューヨーク・ニューヨークに登場したのは、1977年4月25日。いきなりガーデン定期戦のセミファイナルに出場し、マスクマンのエクスキューショナー2号(ビッグ・ジョン・スタッド)からフォール勝ちを収めた。グラハムがボルティモアでサンマルチノを下しWWEヘビー級王座を手にするのは、それから5日後のことだった。(つづく)
斎藤文彦

斎藤文彦

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