フリースタイルラップ、“バブル”の功罪と日本語の変化を語る【ダースレイダー×磯部涼】
カラオケでも今や、ラップを歌うのは当たり前。10代の間ではしっかりフロウが感じられる歌い方が浸透している。“ラップ調”が自然になった理由はなんだろう?
踊ってはいけない国、日本』(河出書房新社)など。『サイゾー』にてルポ「川崎」を連載中
取材・文/高木JET晋一郎 林 泰人(本誌) 取材/腰塚尚己 撮影/本多 誠
― [1億総ラッパー化]現象を追う ―
ダース:ラップの日本語論というか、体言止めがいっぱい出てくるんだよね。日本語の場合「温泉に行く」って言わなきゃいけないのに、「行く、温泉に」っていうのがラップでは頻出するんだよ。
磯部:英語の文法に近くなるっていうか。
ダース:「行く、温泉に」っていうのが、自然に「温泉に行く」に変換されるのがラップの聴き方で、年齢が上の人はそれができないからテンポが遅れてくっていう。そういう日本語の理解の仕方が、もしかしたらラップ以降変わったのかもしれないね。
磯部:ラップ脳ってこと? オレは同時進行だと思うんだよ。日本のラップも普通の会話に近づいてるし、若者の会話もラップに近づいてる。その2つが合わさって、ラップの存在が自然になってきてるんじゃないかな。
ダース:会話する人も、ある種欧米に近くなってるのかもしれないね。欧米では子供の頃から遊びでライミングをやっていて、そのままラップするから、違和感なく喋りとラップを行ったり来たりしてる。海外のラップを聴くと曲の頭で少し喋って、そこからラップに入っても、テンション的にはそのままいくよね。日本もそういうふうになってきてる。あと、ラップではないけどオバマの演説とか。
磯部:スピーチの文化だよね。
ダース:そこはラップと同じ土壌から出てきてるから、リズム感だったり、間だったり、強調する部分だったり、ある種、グルーヴがある。もしかしたら、ちょっとずつ日本でも日本語グルーヴっていうのが生まれてるのかもしれない。
磯部:昔は日本のラッパーってラップスイッチがあったよね。最初は「あーどうも」って感じだったのに、マイク持ったら急に「YO! YO!」みたいな。
ダース:それをスゴく的確に味わったことがあって、杉作J太郎さんの出版パーティで一言挨拶してくれと。「あ、どうもおめでとうございます」って言ったら、いきなりJ太郎さんが、「じゃ、それをラップで」みたいな。
磯部:ははは。
ダース:で、僕が「じゃあ行くぜェ!」みたいになった瞬間、「今、スイッチが入りました。ご覧ください」と。こっちは「すげえ恥ずかしい~」みたいなね。
磯部:今の若いコはスイッチが入りっぱなしってことだよね。
ダース:なんだかんだ日本語ラップも歴史があるしね。
磯部:いい年の人にしても、このブームに乗って初めてラップを聴いたってパターンもなかにはあるかもしれないけど、「そういえば、高校生のときに聴いてたな」って人のほうが多いと思う。
ダース:「’90年代に熱心に聴いてて、テレビを見たら、また思い出しました」って感想は多いね。
磯部:日本のラップって商業的にはそこまで大きくなってないんだけど、もう30年以上続いてるわけだよね。それだけ蓄積があるといろんな層に浸透するし、今回のラップブームも突然起こったことではなくて、下地があったからこそだと思うよ。
<フリースタイルミニ辞典>
●サイファー…路上などで数人で輪になってフリースタイルラップをすること
●ヒップホップ…’70年代、アメリカで生まれたカルチャー。ラップ、DJ、ブレイクダンス、グラフィティが4大要素とされる
【Darthreider a.k.a. Rei Wordup氏】
’77年生まれ、フランス出身、東大中退。9sari Group所属、MC、バンドThe Bassons(ベーソンズ)ボーカル。脳梗塞から復帰、片目の眼帯がトレードマーク
【磯部 涼氏】
’78年生まれ、千葉県出身。音楽ライター、作家。編著に風営法を取り上げた『
『踊ってはいけない国、日本』 「無許可で客を踊らせ」た罪で摘発されるクラブ、違法ダウンロード刑罰化、生活保護受給バッシング、レバ刺し禁止、消えゆく歓楽街…健全で清潔な社会は好きですか?清濁併せ呑んだ議論を提示する一冊。 |
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