「反の経済下」ではトランプ大統領誕生は必然だった
ところで、次に、なぜ、反の経済法則が支配する世界では、内向きの経済政策になるのでしょうか? その答えは、反の経済法則が支配する経済では、お金が回っていないからです。したがって、経済成長がゼロあるいはマイナス、利子率がゼロあるいはマイナス金利、利潤がゼロあるいはマイナスになります。すなわち、積極的な「経済活動」を行っても平均して「ゼロかマイナスの利潤」しか得られませんので、「自由貿易」は否定され、「外向きの経済政策」は否定されます。そこで、「内向きの経済政策」で、「利潤ゼロ」を維持することを目指します。これは、従来からの「資本主義の目指すベクトル」とは「真逆」になります。この時は、本来の「資本主義」ではありませんので、「市場」は否定され、「統制経済化」されます。したがって、各国の中央銀行や中央政府の「政策」に注目が集まるのです。本来の「資本主義」では、「夜警国家」が「理想的な国家像」です。また、「経済」は「市場」がすべてなのです。今、「反の経済空間」にいますので、上記の「資本主義」の本来の姿、経済は、「市場に聞く」、ことが、「困難に」なるのです。したがって、「反の経済空間」では、経済が「国家主導」になり、政治家に「リーダーシップ」が要求されます。「正の経済法則」に支配される従来の資本主義社会では「偏差値秀才のエリート」が政治家になりますが、「反の経済法則」が支配する社会では「偏差値秀才とは真逆の政治家」たとえば、今回の「トランプ氏(米国)」や「ドゥテルテ氏(フィリピン)」が国民から歓迎されるのです。
資本主義の限界』をお読みいただければ有難いです。〈文/木下栄蔵〉
【木下栄蔵(きのした えいぞう)】
1949年、京都府生まれ。1975年、京都大学大学院工学研究科修了、現在、名城大学都市情報学部教授、工学博士。この間、交通計画、都市計画、意思決定論、サービスサイエンス、マクロ経済学などに関する研究に従事。特に意思決定論において、支配型AHP(Dominant AHP)、一斉法(CCM)を提唱、さらにマクロ経済学における新しい理論(Paradigm)を提唱している。1996年日本オペレーションズリサーチ学会事例研究奨励賞受賞、2001年第6回AHP国際シンポジウムでBest Paper Award受賞、2005年第8 回AHP国際シンポジウムにおいてKeynote SpeechAward受賞、2008年日本オペレーションズリサーチ学会第33回普及賞受賞。2004年4月より2007年3月まで文部科学省科学技術政策研究所客員研究官を兼任。2005年4月より2009年3月まで、および2013年4月より名城大学大学院都市情報学研究科研究科長並びに名城大学都市情報学部学部長を兼任。8月12日に新刊『資本主義の限界』(扶桑社)を発売
<写真(ドナルド・トランプ氏)/Michael Vadon(flickr)>
最後に、今回のアメリカ大統領選挙で一番重要な要素は、「今のアメリカ社会」は「1%の富裕層」と「99%の貧困層」に分断されていることです。「反の経済法則」の究極な姿が今のアメリカに現れているのです。ところで、「正の経済」でも「反の経済」でも富の総量は変わりません。異なる点は、「正の経済」では、富の分布が「正規分布」(中間層に多くの人々がはいる)になるのに対して、「反の経済」では、富の分布が2極化(多くの貧困層と数少ない富裕層に分かれる)になります。このようになるのは、「今のアメリカ経済」が「正の経済」であるという前提での「経済政策(金融緩和)」を続けているからです。そして、アメリカは極端な富の2極化になったのです。この姿は、近い将来の日本の姿なのです。したがって、今できることは、これ以上の格差をつけないことです。そのためにこそ「正の経済法則」に沿った「経済政策」にSTOPをかけなければならないのです。また、「反の経済」から「正の経済」に早く戻さなければなりません。この経済政策は「非常に難しく困難」な政策ですが、ここでは詳しく述べません。詳しい内容は拙著『
『資本主義の限界』 日本経済が延々と低迷を続ける理由は「たった1本の経済線」で解き明かせる! |
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