ポール・ヘイメン インタビューPART1「プロレスのオルガズム」――フミ斎藤のプロレス講座別冊WWEヒストリー第244回(1997年編)
――あなたが経験しているプレッシャーと同じようなプレッシャー、あるいはストレスをレスラー側にも要求するということでしょうか。
「わたし自身がそれだけの仕事をしていないのにボーイズにそれを要求しているとしたら、それはボスとしてはアンフェア(不公平)、というか失格です。自分にできないことはみんなにも要求しない。わたしはみんなにわたし自身がつねに体験しているようなセルフ・プレッシャーを感じながらリングに上がってもらいたい」
「たとえば、わたしはサブゥーにはもっともっとビッグな存在になってほしいと考えています。命知らずのダイブをやってのけるレスラー、グッド・パフォーマーで終わってほしくない。サブゥーがサブゥー自身にプレッシャーをかけ、きのうよりもきょう、きょうよりもあしたをベターなものにするにはどうしたらいいかを考えてほしい。プロレスラーが毎晩、毎晩、同じような試合をするようになり、それに対して問題意識を持たなくなったらおしまいなんです。わたし自身も、ポール・ヘイメンはどうあるべきかをつねに考えています」
――セルフ・プレッシャーですね、レスラーたちは、レスリングとはなんなのか、レスリング・ビジネスとはいったいなんなのかを真剣に考えてください、ということですね。
「サンドマンの体をみてやってほしい。肉体的なキャパシティーをはるかに超えた試合をやっている。彼はみずからをイジメ抜いている。UFCに出場したってあんなことにはなりませんよ。サブゥーは足首をネンザして、あばら骨にヒビが入り、口から血を吐くような状態でもリングに上がろうとする。試合中に指の骨が折れたら、その場でテーピングをぐるぐる巻きにしてしまう。わたしはこう叫ぶ。『おい、もう行こうぜ。死んじまうぞ』。すると、サブゥーはこう答える。『試合が終わったらな』。なぜそうまでして闘うのか。それは、彼らが考えるところのプロレスとはそういうものだからなのです」
――彼らは彼らのなかでレスリングのなんたるか、プロレスラーとはどうあるべきかを追及している。そういうことですね。
「サブゥーにはサブゥーが考えるところのグッド・マッチの定義があって、サンドマンにはサンドマンがイメージするところのグッド・ファイトというものがある。ECWはそれを実践する場、ということです。レスラーたちとは毎日のようにディスカッションをつづけています。彼らひとりひとりにはそれぞれにモチベーションがあります。まず、どうしてECWのリングを選んだのか。ECWの発展とともに彼らもビッグになっていきたいとか、いいギャラを稼ぐようになりたいとか、理由はいろいろです」
「もともと、レスラーはブッカーやマッチメーカーに対しては絶対服従なのです。だから、こんなことがしたい、あんなことがしたいという希望はレスラーたちのほうからは口にすることはできない。大きな団体だったらなおさらそうです。ボーイズの頭のなかには、あんなことがしたい、こんなことがしたいという具体的なアイディアがつまっている。プロレスとはなんなのか、をいつも考えている。ECWとはレボルーショナリー(革命的)でイボルーショナリー(進化的)な団体なのです」
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