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酒好きアラサー女子3人が飲みまくる『のみじょし』にハマってしまう理由――南信長のマンガ酒場(3杯目)

ちょっとお高いおつまみ缶詰でひとり酒盛り!

 酒はもちろん料理もすこぶるうまそうで、その点でも破壊力バツグン。カニ、天ぷら、釣って焼いたイワナ、おでん、ローストビーフ、焼きガキにカキフライ、窯焼きピザ、もつ煮込み、ふぐ、アジのなめろう……って、もう書いてるだけで辛抱たまらん!  とはいえ、そのへんのメニューはすぐに用意できるものではないだけまだマシだ。ヤバいのはコンビニでちょっとお高いおつまみ缶詰を買い込んだ道子が、ひとり缶詰祭りを開催するエピソード。ハバネロサーディンを一切れ食べて「あっからい! うまい! からいっ!!」「ビールビール! これはビール!!」と一缶一気飲み。続いてカキのスモークに身悶えし「だれかーーッ だれかウイスキー!! マスター!!」と叫び、誰もいないので自分でマスター役の小芝居を演じてウイスキーをストレートでクイッ【図2】。こんなの見せられたら、どうしてコンビニに走らずにおられようか。
図2「のみじょし」2巻p105

【図2】迂闊『のみじょし』(竹書房)2巻p105より。

 そして、本作において酒や料理に負けず劣らず魅力的なのが、キャラクターだ。  道子、ゆき、ソノさん、それぞれの性格とルックスの見事な描き分けに感心する。ただ飲んでるだけじゃなく、背景にある日常――仕事や家庭や男女関係など――が随所に顔をのぞかせ、飽きさせない。暑い夏には「女子がおしぼりでふくのはどこまでがセーフだと思うー?」、寒い冬には熱燗飲みつつ「もーねーダメなの! ついついスカートよりパンツ選んじゃうの! おしゃれ心より寒さが勝っちゃうんだよー!!」なんて、女子同士の会話もリアル(いや、本当に女子同士でそんな会話するのかどうかは知らんけど)。さらに、彼女らのみならず、同僚や家族、親戚など、全員のキャラが立っていて、みんながそれぞれの人生を生きている。それゆえ作品世界に奥行きが生まれるのだ。  前述のとおり、酒飲みとしての共感度は文句なし。酒に関するよけいなウンチクを語らないのもいいし、3人が別に合わせようとせず好きなものを飲むのもいい(おでん回ではビールと焼酎お湯割りと冷酒で乾杯していた)。また、みんなで飲むときは当然ながら、ひとりでも楽しく飲めるのがナイス。各自が己の心のおもむくままに飲む自由で自立した酒飲みであり、なかでも道子の酒に対する意地汚さは他人事とは思えない。「この酒飲み女子がすごい!」というランキングがあれば、ぜひ1位に推したいと思う。 文/南信長●1964年大阪府生まれ。マンガ解説者。著書に『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『やりすぎマンガ列伝』がある。
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のみじょし 1

酒好きアラサー女子の呑ん兵衛コメディ4コマ!


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