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水島新司『あぶさん』 酒は合法ドーピングだ――南信長のマンガ酒場(4杯目)

 マンガの中で登場人物たちがうまそうに酒を飲むシーンを見て、「一緒に飲みたい!」と思ったことのある人は少なくないだろう。『まんが道』のチューダーのように一度は飲んでみたい酒、『あぶさん』の「大虎」のように一度は行ってみたい酒場もある。酒の嗜好がキャラの特徴となっているケースも多々あるし、酒を酌み交わすことで親子や仲間の絆を深めたり、酔っぱらって大失敗、酔った勢いで告白(あるいはベッドイン)など、ドラマの小道具としても酒が果たす役割は大きい。  当コラムでは、そんなマンガの中の印象的な“酒のシーン”をピックアップし、そのシーンと作品の魅力について語る。酒好きな方はもちろん、そうでない方も、酒とマンガのおいしい関係に酔いしれていただきたい。  今回は、マンガ史上に残る酒豪キャラの登場だ。

【4杯目】水島新司『あぶさん』◎酒は合法ドーピング!?

「野球マンガ史上最高の打者は誰か?」というお題には、さまざまな名前が挙がるだろう。しかし、「野球マンガ史上最高の酒豪は誰か?」と問われれば、答えは「あぶさん」こと景浦安武をおいてほかにない。 『あぶさん』の連載がスタートしたのは1973年。南海ホークス(現ソフトバンクホークス)のスカウト・岩田鉄五郎が、社会人野球でくすぶっていた酔いどれスラッガー・景浦を訪ねるところから物語は始まる。  初登場シーンの景浦は、大衆酒場「大虎」で飲んだくれていた。テーブルにはアブサンのボトル。安武という名前を音読みした「あぶ」という愛称に、さらに酒のアブサンを引っかけたわけだ。 【図1】
【図1】水島新司『あぶさん』(小学館BC)1巻p22-23より

【図1】水島新司『あぶさん』(小学館BC)1巻p22-23より

 しかし、“アブサンを愛飲するあぶさん”という設定は最初だけで、その後はほとんど出てこない。度数が高いアブサンは酒豪のイメージには合うものの、日本ではあまりなじみのない酒ということもあり、早々に方向転換したのだろう。  べろべろに酔っぱらっていてもバットを構えると体の震えがピタッと止まり、重いマスコットバットで豪快に素振りをする。その姿を見た岩田は、契約金50万、年俸100万でプロ入りをオファー。仕事上のトラブルで会社をクビになり借金もあった景浦は、二つ返事でこれを受ける。のちに実績と人格の両面から「球聖」と呼ばれるようになる景浦も、若い頃はやさぐれていたのだ。  晴れてプロとなった景浦だが、開幕からしばらくは二軍暮らし。一軍の試合がテレビ中継されている最中に大虎に飲みに来た景浦に対し、常連客の草野球のエースが「ほんまにおまえプロかい?」「たかが二軍のくせに」「給料どろぼう」などと挑発的な発言を繰り返す。表面上は受け流しながらもカチンときた景浦は、そのまま大虎で飲み明かした翌日の草野球の試合に飛び入りし、そいつから超特大場外ホームランをかっ飛ばす。  プロが素人の球を打っても自慢にはならないが、一晩で日本酒3升飲んだうえに朝からウイスキーのボトルをラッパ飲みしながら打席に入っているのだから、さすがというか何というか。「おれは一斗を越えんかぎりは平常(しらふ)だぜ」と豪語する景浦にとって、日本酒3升、ウイスキー1瓶ぐらいは屁でもないらしい。  プロ初出場となる代打の場面でも、ウイスキーをしこたま飲んでふらふらと打席に入り、グリップエンドに巻いてあったスルメをムシャムシャ。相手投手が「このやろう ふざけやがって……」と思うのも無理はない(結果はポテンヒット)。
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あぶさんを超える酒好き投手がいた!
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