『アイアムアヒーロー』極限状況での一杯にノドが鳴る!ーー南信長のマンガ酒場(6杯目)
マンガの中で登場人物たちがうまそうに酒を飲むシーンを見て、「一緒に飲みたい!」と思ったことのある人は少なくないだろう。『まんが道』のチューダーのように一度は飲んでみたい酒、『あぶさん』の「大虎」のように一度は行ってみたい酒場もある。
酒の嗜好がキャラの特徴となっているケースも多々あるし、酒を酌み交わすことで親子や仲間の絆を深めたり、酔っぱらって大失敗、酔った勢いで告白(あるいはベッドイン)など、ドラマの小道具としても酒が果たす役割は大きい。
当コラムでは、そんなマンガの中の印象的な“酒のシーン”をピックアップし、そのシーンと作品の魅力について語る。酒好きな方はもちろん、そうでない方も、酒とマンガのおいしい関係に酔いしれていただきたい。
今回は、ゾンビパニックの名作。極限状況だからこそ、一杯の酒がしみるのだ。
斬新な設定と緻密な描写で2010年代以降のゾンビマンガブームの火付け役となった『アイアムアヒーロー』。2016年には大泉洋主演で映画化もされたヒット作だ。
アシスタントとして糊口をしのぐ売れない漫画家の日常に不穏な影がチラチラ顔をのぞかせ、何か大きな異変が起こりつつあることを予感させる。そこから一気呵成にパニックへと突入していくジェットコースターのような展開は圧巻だった。
作中で「ZQN(ズキュン/ゾキュン)」と呼ばれるゾンビがあふれる東京を何とか脱出し富士の樹海に逃げ込んだ主人公・鈴木英雄は、林間学校に来ていて難を逃れた女子高生・早狩比呂美と出会う。
襲い来るZQNから逃れながら行き着いたのは、富士山麓の神社。そこには「五合目まで登ればウイルスに感染しない」という噂を信じて集まってきた群衆がいた。
しかし、紛れ込んでいたZQNが人々を襲う。次々に感染・増殖していくZQNに阿鼻叫喚の坩堝と化すなか、英雄と比呂美はカメラマン・荒木の車に拾われ、五合目の山小屋に逃げ延びる。
そこでようやく一息ついた3人は、誰もいない山小屋の自販機でビールをゲット。さきいかをつまみに「とりあえず、ここまでは生きてることを祝して」乾杯する。カシュッと開けた缶ビールをゴッゴッと飲む、その表情のうまそうなこと! 見ているこっちも思わずノドが鳴ってしまう【図1】。
何しろパニック発生以来、2日ぶりの酒であり食事である。しかもビールにさきいかという黄金コンビ。空腹を満たすには物足りないにせよ、これほど臓腑にしみる一杯もないだろう。
比呂美は高校生ということで最初はコーラか何かを飲んでいるが、いつのまにかちゃっかりビールを飲んでいる。「未成年でしょ!!」と叱る英雄(こんな状況でもビールやつまみの代金を払い、モラルを守ろうとするクソ真面目な性格)に「うっせーよ 飲まなきゃやってられねーだろバカ」と返す比呂美は、実は結構いけるクチだ。
その後いろいろあって英雄と比呂美の二人で東京に向かう途中、無人のスーパーで酒とつまみを調達、海辺の漁師小屋のようなところで酒盛りをする。クソ真面目な英雄も、もう未成年だからダメとは言わない。缶チューハイを一気に飲み干す比呂美の飲みっぷりに「ホント強いね、どこで覚えたの?」と感心する英雄。それに対して比呂美いわく、「おばあちゃん家、お好み焼き屋やっててね、バイトしながらよくお客さんにお酒おごってもらったの」「カラオケ歌ったり、お酒作ってお客さんの横に座っておしゃべりしたり…」って、「スナックじゃん!」と英雄がツッコむのも無理はない。
【6杯目】花沢健吾『アイアムアヒーロー』◎極限状況での一杯にノドが鳴る!
ビールにさきいかという黄金コンビ
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