第7代大統領 アンドリュー・ジャクソンの「功罪」から読み解くトランプ政権
――今回の「入国禁止令」は波紋を広げているが、トランプは大統領選のときから、不法移民や難民を含む「移民政策」全般で、かなり強気な発言を繰り返してきました。一方、ジャクソンは、無慈悲な「先住民政策」を行ったことで知られています。
西山:ジャクソンはテネシー州市民軍で指揮官を務めていた頃、「先住民は殲滅しなければならない」と言っており、「女性と子供はすぐ殺せ」という命令まで出しています。ただ、ビジネスの面でいうと黒人奴隷農場主としては柔軟で、当時の水準からすると奴隷に対してはかなり「寛大」だったと言われています。女性の奴隷が子供を持つのが難しい時代にジャクソンはそれを容認していましたし、奴隷が食料確保のため銃がほしいと頼まれれば、猟に出るならと貸し与えていました。ですが、差別意識が全くなかったわけではなく、黒人の選挙権は認めない立場でした。メキシコとの国境に「壁」をつくる費用を全部出せ、と強気を崩さない一方で、国内で生きる中南米系のアメリカ人労働者に酷いことはしない、と公言していますし、柔軟さはあるのではないか。
――現在、トランプは「ご乱心の独裁者」のごとく批判されていますが、ジャクソンとの共通点で期待できるような部分はないのでしょうか。
西山:アメリカの民主主義はジャクソンの時代に定着したと言われており、白人の普通参政権も拡大していきました。これは今も評価が分かれるところですが、「猟官制」といって、官僚機構を民衆化したという点も大きな転換点だと思います。実際には一期目のときに2割程度の官僚を入れ替えたにすぎないのですが、アメリカでは官僚はヨーロッパの君主を支える「悪の根源」という見方があり、それを民衆化したという意味では、アメリカの基礎を築いたと言っていい。現代と比べるといじりやすかったとは思いますが、かなり大胆なことをしたのは確か。これまで20回くらい切手にもなっていますし、それを超えるのは、ジョージ・ワシントンとエイブラハム・リンカーン、そしてフランクリン・ルーズベルトの3人くらい。今も根強い人気のある大統領なのです。
猟官制とは、選挙に勝利した政党が「戦利品」を収奪するように、官職のポストを地滑り的に手に入れる政治慣行のことを指す。米国では「大統領が代わると、地方の郵便配達夫まで入れ代わる」といった皮肉もあるが、この習わしこそ、ジャクソン大統領の時代に確立されたと言われているのだ。アメリカの官僚制度の礎をつくったという点でも、まさにパイオニア的な存在だったということだろう。
『移民大国アメリカ』 止まるところを知らない中南米移民。その増加への不満がいかに米国社会を蝕みつつあるのか。米国の移民問題の全容を解明し、日本に与える示唆を多角的に分析する。 |
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