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郊外貧困の最新事情「“ファスト風土”はもっと悲惨なことになっていた」【映画監督・富田克也】

いま、若者にヒップホップが支持されている理由

映画『サウダーヂ』より

――富田監督の作品は世間でまだ言語化されていないものを先に映画の中で描いてきたように思います。先ほどの『国道20号線』の“マイルドヤンキー”みたいな存在もそうですが、“意識高い系”もそうかなと思います。『サウダーヂ』の登場人物で、一度上京したものの、甲府に戻ってきて在日ブラジル人と日本人をクラブイベントを通して交流させる、コスモポリタニズム的なものに目覚めた女性“まひる”の存在には、当時衝撃を受けました。

映画『サウダーヂ』より。左の女性がまひる。

富田:俺たちはあの役を特徴的に描きましたが、ああいうコたちと接していると、とどのつまり彼女たちは欧米的価値観でしか物事を語っていないように思えました。つまり”白い”。このコたち、頭から爪の先まで白くなりたいだけじゃんって。もちろん、欧米的な価値観がすべて悪いとは言わないけど、日本はしみじみ(欧米的価値観の)植民地なんだよなぁと思わされました。
――富田監督はかつてBOØWYのコピーバンドをしていたそうですね。『サウダーヂ』でも「わがままジュリエット」が印象的に使われていますが。 富田:そのBOØWYの音楽がよく表していると思うんですけど、よくよくBOØWYの歌詞を読んでもあんまり意味はないんですよね(笑)。そういう、なんとなくキラキラしたカッコ良さに憧れるだけの時代はもう終わって、この“白く”されきった日本でヒップホップというものが真実味を増してきているように思います。道端から叫ばれる世の中になったんだということを痛感しましたよね。田ちゃん(田我流)は“黒い”んですよ。 ――なるほど。

甲府の中心市街地も、『サウダーヂ』公開から6年が過ぎ風景が変わり始めた

富田:今後、この日本社会は無理やりかつ徹底的な欧米化というか、植民地化が進んだ挙句にどういう方向に向かうのかをよく考えますね。 いま、山梨には東京などから多くの人たちが移住してきています。なんでもかんでも金を払うことでしか得られないというシステムの中で、失われたものを取り戻す作業として農業を始める人たちが増えているんです。彼らの考えは非常にシンプルで、「食い物を自ら作り出す以上に強いことはない」というもの。 ですが、これには農協に代表される既に利権化されたシステムが立ちはだかっています。しかし、これにも抗おうという機運があります。ずっと分断されて働かされ続けていたら苦しくなっちゃうのは当然。でも、「それが当り前だから諦めるしかないでしょ」なんていうのは嘘。それにみんな気づき始めていると思うんですよね。 僕らも、みんなで寄り集まってワイワイやってなきゃマズイよ、ってことを言い始めています。つまり、共同体を取り戻そうってことなんですけど、そういう機運に対して、いま権力側は共謀罪を成立させようとしています。権力なんざ、いつだってそういう被害妄想でおびえ続けてるもんですが。 でも、最終的には今権力側にいるヤツらとも仲間にならないといけないという気概は必要でしょう。敵はもっと巨大なんですから、とにかく分断されてる場合じゃないと思います。

『バンコクナイツ』で富岡役を演じた空族俳優・村田進二氏(左)と富田監督(右)

――「『サウダーヂ』で田我流と出会ったように、『バンコクナイツ』でも様々な仲間との出会いがあった」と富田監督はある取材で語っていますが、そういった様々な出会いが、今後の作品内でも反映されそうですね。

『サウダーヂ』撮影中の富田監督

富田:『サウダーヂ』以降、もはや立ち上がるしかないという気持ちは一貫してあります。その結果できあがったのが『バンコクナイツ』。現在公開の真最中ですが、その気持ちを切実に感じている人々と、そうでない人々との間で、感想が真っ二つなのがわかりやすいですね。 <取材・文/日刊SPA!取材班>
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■作品情報
『バンコクナイツ』 http://www.bangkok-nites.asia/
(c)Bangkok Nites Partners 2016  2017年2月25日(土)テアトル新宿、横浜シネマ・ジャック&ベティにてロードショー開始。全国順次公開

■取材協力
「春夏秋冬」山梨県甲府市大里町3261コシイシテンポ3棟(『バンコクナイツ』にて富岡役を演じた空族俳優・村田進二氏が店長)
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