突然変異の怪物レスラー、ゴールドバーグ――フミ斎藤のプロレス講座別冊WWEヒストリー第303回(1998年編)
しかし、こういうデータをいくら調べても、どうしてゴールドバーグがこんなにいきなりだれでも知ってる“あの人”になってしまったのかはちっともわからない。
アメリカの都市部ではいちばんよく読まれてるといわれるニューズ・スタンドの日刊紙『USAトゥデー』の“ライフ面”に、“ガォーッ”の顔をしていないゴールドバーグの顔が紹介された。AP通信がワイヤーで配信した「ユダヤ人社会のスポーツ・ヒーロー、ゴールドバーグさん」なんて記事がフツーの新聞のフツーの“人物欄”に載っていた。
ショッピング・モールへ行けば、ごくふつうのそのへんのTシャツ屋さんや雑貨屋さんにあたりまえのような感じでゴールドバーグの“ガォーッ”のTシャツが並べられていた。ほんのちょっとまえまでは“ゴールドバーグ”なんてキャラクターはこの世に存在すらしていなかった。
ジム・キャリー主演の映画『トゥルーマン・ショー』じゃないけれど、ゴールドバーグというプロレスラーはその誕生からスーパースターになるまでのすべてのプロセスがテレビ番組で実況中継されたのだった。
デビューからわずか10カ月のルーキー、ゴールドバークはハルク・ホーガンを軽くひとひねりしてWCW世界ヘビー級王者となった(1998年7月6日=ジョージア州アトランタ、ジョージア・ドーム)。
体が大きくて、顔がコワくて、ひたすら強くてわかりやすいハゲ頭のチャンピオンは、いつもの時間にいつものチャンネルに現れて、とっとと勝ってとっとと帰る。
“マンデー・ナイトロ”を観ている視聴者ならだれでも知っている定番ムーブは、助走つきのスピアとジャックハマー。カウント3が入るとゴールドバーグが“ガォーッ”と吠える。この基本パターンは絶対といっていいくらい崩さない。
WCWのおもな登場人物はホーガン、ロディ・パイパー、ランディ・サベージ、ケビン・ナッシュ、スコット・ホールらに代表されるWWEからの移籍組、リック・フレアー、レックス・ルーガーらWWEから古巣へののUターン組がほとんど――スティングだけが例外――だが、ゴールドバーグは正真正銘のオリジナル・キャラクターだった。
なにがなんでも強いこと。ずっと変わらないこと。あまりしゃべらないこと。ゴールドバーグは、スーパーマンやバットマンに通じるアメリカ人が大好きな架空のスーパーヒーローの普遍性のようなものを感じさせる突然変異のスーパースター。どこかに忘れてきた“ビル”は、迷子になったクラーク・ケントだったのだろう。(つづく)
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文/斎藤文彦 イラスト/おはつ
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