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ヤクザの家族が直面する壁…潔癖主義の社会で「ここまで追い込まれるなんて」

 子供も生まれ、事業はますます拡大していたが、そんな折に、夫の会社に新入社員が入ることになった。新入社員は、夫が所属する暴力団の上役の子息だった。 「夫は、事業の方では暴力団であることを完全に隠していましたが、上からのお願いということで断れなかった。この新入社員が組の名前を使って恐喝事件を起こし逮捕されたことで、(連帯責任として)夫まで逮捕されたのです」  幸いニュースになるほどの事件ではなかったが、会社や自宅に捜査員が押し寄せ、近隣住民にもA氏が暴力団員であったことが知れ渡ると、大家からは退去を迫られ、事業も停止。智恵美さんが事業を引き継げるはずもなく、支払いなどの負債がかさみ、一気に自己破産にまで追い込まれた。智恵美さんは涙ながらに言う。 「一番辛かったのは、子供まで幼稚園を追い出されたこと。近所の住民が子供の幼稚園やスイミングスクールにまで吹聴して……。ヤクザがダメなのはわかりますが、ここまでやるなんて……」  知り合いの弁護士に相談したが「再起するには離婚しかない」と言われ、書類上はA氏とは他人になったという智恵美さんだが、後に釈放された夫とは月に5~6回会っているのだという。 「夫は出所後に清掃会社を立ち上げ、自らも作業員として現在は福島県内で除染作業をしています。会うたびに1~2万円くれるのですが、本当に寝る暇もなく働いて、借金も返していますが、いつまでこういう生活が続くのか……」  か……。少しのシミも許されない「漂白された社会」を理想とする人々が増えているともいう。社会が臭いものに蓋をすることで、智恵美さん一家は破滅の一歩手前まで追い詰められた。追い詰められ墜落した人々の救済や再起を促す仕組みも作られないままに、潔癖さだけを希求する。この国に、余裕がなくなってしまったという事実が浮き彫りになっているかのようだ。 <取材・文/伊原忠夫>
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