馬場さんが指摘した「エースのダメなところ」――フミ斎藤のプロレス読本#039【全日本ガイジン編エピソード8】
エースがプロレスラーとしてのキャラクターづくりで頭を痛めているのは、彼自身がかなりオトナになってからプロレスラーになることを決心したことと関係がある。
子どものころからひとりのファンとしてプロレスと接していたのであれば、こんなレスラーをめざしたいという具体的なイメージがあるはずだが、就職先としてプロレスを選択したエースにはそれがない。
どちらかといえば、兄アニマルになかば無理やりプロレスラーにされてしまった。全日本プロレスでのエースの試合を目にしているとついつい忘れがちだが、あのアニマル・ウォリアーとエースはじつの兄弟で、いまでもふたりは毎日のように電話で連絡をとっている。もちろん、会話の主導権を握っているのは兄アニマルだ。
アニマルは、大学を卒業してコンピューター関連の会社でオペレーターとして働いていたエースをプロレスの世界にひっぱり込んだ。アニマルの弟ジョニーは、あしたからでもリングに上がれるような立派な体格をしていた。
アニマルが弟に伝えたかったのは、そんな体とそんなルックスでふつうの仕事をやってフツーに暮らしていてもつまらないぞ、ということだった。
そして、ある日、プロレスラーになったエースは、ビジュアル面でもフィジカル面でも将来性は十分との評価をもらい、全日本プロレスの契約選手となった。しばらくすると、馬場さんからハンセンのタッグパートナーに抜てきされた。ふつうの外国人レスラーだったら、ここまで来るのに10年以上はかかってしまう。
それなりに才能があって、周囲もその成長を楽しみにしているにもかかわらず、本人の意識だけが足踏みをくり返していた。
馬場さんが口にした「ダメなところ」はエースの耳には届いていない。エースはエースで、プロレスのなんたるかといういちばん基本のところででゆっくりと、のんびりと悩んでるのである。(つづく)
※文中敬称略
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文/斎藤文彦 イラスト/おはつ1
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