80年代ドライブコースの大定番「134号」のなにが若者たちを駆り立てたのか? 湘南海岸沿いで大渋滞、1時間で10mしか進めないことも…
もう一つ心当たるのは、あのサザンオールスターズの影響だ。『希望の轍』で134号を示唆する「エボシライン」を世に知らしめたのは90年代の話だが、80年代初頭からすでに「日本語を英語風に歌う手法」で湘南の風を日本中に吹かせ、サザンは自らの地元を全国区の「憧れのスポット」へとのし上げたのである。
多くの中流階級とその息子にとって、そんな「憧れのスポット」をドライブする憧れのクルマはファミリアとシティ。ちょっとだけお坊っちゃんならゴルフ。四角いクルマが圧倒的な人気で、なぜか赤がやたら好まれていた。その上にサーフボードを乗っけたら完璧。信じられないことに、サーフィンをやったこともないのに、アクセサリーとしてボードを車上に“飾っていた”輩も少なからず実在した。たとえ「丘」だろうが、サーファーとして134号を流すことに重要な意味、ステイタスがあったのだ。
そして、車内にマストだった三種の神器が「カーステ」「缶ジュースホルダー」「なるべくでっかいスピーカー」だ。
ダブルカセットのコンポでしこしこと編集した「マイテープ」が奏でる音源を、となりに座る愛しの彼女に披露する二人だけの密室空間……。それこそがクルマを保有することのモチベーションであり、アイデンティティーですらあった。
赤くて四角いクルマに、シチュエーションに応じてめまぐるしく微調整されるBGMのボリュームを精密に再生してくれるカーステ&スピーカー、それにクーラーできんきんに冷えた缶ジュースや缶コーヒーがあれば、渋滞なんか怖くない。「マイテープ」の出来と本数次第では、むしろ味方にさえできる。とっておきの一曲は“勝負のとき”にちゃんと残しておいたりもして……。
やがて静かな海岸に愛車を停め、バックに『愛しのエリー』がさり気ない音量で流れたら、シートを倒して××(「チョメチョメ」と読む)……と、理想のタイムスケジュールを完遂できた者は、意外に少なかったとも聞く。「行きは天国、帰りは無言地獄」ってヤツですな(笑)。
文/山田ゴメス大阪府生まれ。年齢非公開。関西大学経済学部卒業後、大手画材屋勤務を経てフリーランスに。エロからファッション・学年誌・音楽&美術評論・人工衛星・AI、さらには漫画原作…まで、記名・無記名、紙・ネットを問わず、偏った幅広さを持ち味としながら、草野球をこよなく愛し、年間80試合以上に出場するライター兼コラムニスト&イラストレーターであり、「ネットニュースパトローラー(NNP)」の肩書きも併せ持つ。『「モテ」と「非モテ」の脳科学~おじさんの恋はなぜ報われないのか~』(ワニブックスPLUS新書)ほか、著書は覆面のものを含めると50冊を超える。保有資格は「HSP(ハイリー・センシテブ・パーソンズ)カウンセラー」「温泉マイスター」「合コンマスター」など
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