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“神様”カール・ゴッチ――フミ斎藤のプロレス読本#053【カール・ゴッチ編エピソード1】

 ゴッチがほんとうの意味で“神様”のような不思議な力を発揮するようになったのは、猪木よりもあとの世代の日本人レスラーたちとリング以外の場所で接するようになってからだった。リング以外の場所とは、もちろん、道場を指す。  藤波辰爾、木戸修、藤原喜明、佐山聡、前田日明、高田延彦らは、観客のいない場所でゴッチといっしょに長い時間を過ごした。“神様”のレスリング技術は、あるときはストロングスタイルと呼ばれ、またあるときはUWFスタイルと呼称された。  強くなりたいという者たち、みずからゴッチ道場の門をたたいた者たちには、ゴッチはわけへだてなくレスリングを教え、レスリングを説いた。  神様は、日本のプロレスラーのレスリングに対するまじめな姿勢をうれしく思い、ひょっとしたら、このレスラーたちならば現役時代のゴッチがひとりでできなかったことを実現させてくれるのではないか、と本気で考えるようになった。  神様をその気にさせたのは藤原であり、佐山であり、前田であり、彼らが新しいリングに集いスタートさせたプロフェッショナル・レスリングの改革だった。そこにはたまたまUWFという団体名がついていた。  しかし、佐山が抜け、藤原が去り、前田と高田が別べつの道を歩みはじめ、けっきょく“U”の分子は3つ、4つに細胞分裂していった。  プロフェッショナル・レスリング藤原組、UWFインターナショナル、リングスのU系3団体のなかでは、藤原組のリングでおこなわれている試合がいちばんゴッチ流のプロフェッショナル・レスリングに近い。  いまでもゴッチはレスリングのことだけを考えて生きている。毎朝5時に起床し、自宅のガレージを改造してつくった練習場で約2時間のトレーニング・メニューを消化。そのあとは、愛犬ジャンゴを連れて田舎道を1時間ほど散歩する。  楽しみといえば、日本の友人が送ってくれる大相撲のビデオを観るくらいで、あとは家でゆっくり食事をして、ほんのちょっとだけワインを飲んで、外が暗くなったらもうベッドに入ってしまう。  いったいどうして、みんなが仲よくやっていけなかったのか。ゴッチにはどうしてもそれが理解できない。理想とするレスリング、考えていたことは同じだったはずなのに、あっというまにみんなの気持ちがバラバラになってしまったことに納得がいかない。
斎藤文彦

斎藤文彦

 それでも、神様は毎朝、決まった時間に目をさますと、だれのためというわけではなく、ただ黙々とトレーニングに朝を流している――。 ※文中敬称略 ※この連載は月~金で毎日更新されます 文/斎藤文彦 イラスト/おはつ
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⇒連載第1話はコチラ

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