“ブン、ブン、ブーン”レザーフェイスが帰ってきた――フミ斎藤のプロレス読本#092【Tokyoガイジン編エピソード02】
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
マイク・カーシュナーは、またあのマスクをかぶり、あの衣装を着て、チャーン・ソーを振りまわしながら観客席になだれ込んでいくシーンを思い浮かべてはため息ばかりついていた。
レザーフェイスのキャラクターがマイクのものであってマイクのものでなくなってしまったのは2年まえのことだ。
日本のリングにはふたりのレザーフェイスがいる。初代と二代目、あるはオリジナル・レザーフェイスとレザーフェイス2といった表記が用いられているが、どちらが本物かといえば、もちろんマイクのほうである。
事件は六本木の道ばたで起きた。その夜、マイクはサンダーバード・コモ、ダグ・ギルバート、カナディアン・タイガーといった若手ガイジンたちを連れてナイトクラビングに出かけた。カナディアンがそのへんを歩いていた日本人の女の子にちょこっと声をかけた。その女性はナンパされるつもりはなかったらしい。
「ねえ、遊びにいこうよ」
「ノー、ノー」
「ねえ、どっか行かない?」
そのうち、その女性の友人だという日本人男性が現れた。荒っぽい口論がおっぱじまった。「ファック・ユー」なんてセリフが飛び交った。どこでどうなったのか、その日本人男性とストリートファイトをやらかしたのはカナディアンではなくてマイクだった。
それからしばらくして、ボーイズは友だちが運転するヴァンに乗って六本木エリアをあとにした。ビッグ・トラブルが大きな足音を立てて近づいてきてるなんて、だれも予想していなかった。
外苑西通りと青山通りの交差点に出たところで、数人のポリスメンが車のまわりを取り囲んだ。“逃走車”のナンバーは警察に通報されていた。マイクたちはその場で麻布署への同行を求められた。ここから先はまるでコップ映画のワンシーンのようだった。
ついさっき六本木の道ばたでタンカを切っていた日本人男性が、アゴに湿布をして容疑者の到着を待っていた。“犯人”の確認が終わった。英語が話せるポリスマンが出てきて事件の説明をはじめた。
ただの街のケンカかと思ったていたら、たいへんなことになっていた。取り調べがすむと、カナディアンとコモとギルバートはそのまま帰されたが、マイクだけはその夜から留置所に入れられた。被害者の男性は、加害者がプロレスラーだということを知っていた。
1
2
⇒連載第1話はコチラ
※斎藤文彦さんへの質問メールは、こちら(https://nikkan-spa.jp/inquiry)に! 件名に「フミ斎藤のプロレス読本」と書いたうえで、お送りください。
この連載の前回記事
この記者は、他にもこんな記事を書いています
ハッシュタグ