“ブン、ブン、ブーン”レザーフェイスが帰ってきた――フミ斎藤のプロレス読本#092【Tokyoガイジン編エピソード02】
裁判は全部で3回おこなわれた。お金をあまり持っていなかったマイクは、麻布署のヘルプで国選の弁護士をつけてもらった。殴られたほうの日本人男性はなんとしてもキャッシュで賠償金をふんだくってやろうと考えていたようだったが、さいわいそういう展開にはならなかった。
そのうち、パスポートに押されていたスタンプの滞在期間が満了となり、マイクは入国管理局の書類上、オーバー・ステイのエイリアンになった。
気がついたら、麻布の留置所暮らしは4カ月を数えていた。何度も何度も面会に来てくれたジャパニーズ・フレンドもいたし、手紙ひとつもくれない知り合いもいた。
けっきょく、かんたんな裁判の判決はマイクの有罪。執行猶予1年がついて、結果的にはまずまずきれいな体でアメリカに帰ることができた。
マイクが身柄を拘束されている数カ月のあいだに、リングの上にはもうひとりのレザーフェイスが出現していた。コスチュームは、どうやらマイクが着ていたものがそのまま使われていた。
日本滞在中にお金に困ったあるアメリカ人レスラーが“レザーフェイスの衣装一式”をプロレス・ショップにたたき売ってしまった、というイヤなうわさを耳にした。弱小インディー団体W★INGの倒産のニュースは日本人の友人から聞いた。
とにかく、もういちどあのマスクをかぶって、チェーン・ソーをブン、ブン、ブーンとやってみたかった。素顔のマイクが暮らしているフロリダ州フォートローダーデールにはレザーフェイスのことを知っている友人はほとんどいない。めんどうくさいから説明もしない。
マイクは、レザーフェイスのギミックを愛している。マイクが不在だったあいだにレザーフェイスの中身がスリ替わったとき、親しいジャパニーズ・フレンドがその事実をすぐに教えてくれた。トーキョーには信頼できる友だちがいる。
トーキョーという街は大好きだし、トーキョーにいる友人たちも大好きだ。マイクは、後輩をかばって自分がトラブってしまうような不器用なヒューマン・ビーイングなのだった(つづく)。
※文中敬称略
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文/斎藤文彦 イラスト/おはつ
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